訓読 >>>
朝月(あさづき)の日向(ひむか)黄楊櫛(つげくし)古(ふ)りぬれど何しか君が見れど飽かざらむ
要旨 >>>
朝の月が日に向かうという、日向産の使い古した黄楊櫛(つげぐし)のように、私たちの仲もずいぶん古くなってしまいましたが、どうしてあなたはいくら見ても見飽きないのでしょう。
鑑賞 >>>
『柿本人麻呂歌集』から「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」。上2句は「古りぬれど」を導く序詞。「朝月の」は「日向」の枕詞。「日向」は、国名で今の宮崎県。「何しか」は、どういわけか。夫婦関係が久しくなっている妻が、朝、黄楊の櫛を扱いながら、夫に対して和んで言っている歌です。梳っているのは自分の髪ではなく、夫の寝乱れた髪でしょうか。微笑ましい歌です。