訓読 >>>
焼太刀(やきたち)を砺波(となみ)の関(せき)に明日(あす)よりは守部(もりへ)遣(や)り添へ君を留(とど)めむ
要旨 >>>
焼いて鍛えた太刀、その太刀を研ぐという砺波の関に、明日からは番人を増やして、あなたにゆっくり留まっていただきましょう。
鑑賞 >>>
天平勝宝元年(749年)5月5日、東大寺の占墾地使(せんこんじし)の僧(そう)平栄(へいえい)らをもてなした時、大伴家持が酒を僧に贈った歌。「占墾地使」は、寺院に認められた開墾地(荘園)の所属を確認する使者で、この時期、平栄らは越中に入って活動していました。
東大寺や中央貴族の墾田地(荘園)を占有するため、国守の家持にもその行政力が期待されていました。家持が在任中に成立した越中国内の東大寺荘園は、天平21年(749年)4月1日詔書の「寺院墾田地許可令」にもとづき、射水郡4か所、砺波郡1か所、新川郡2か所の合計7か所から始まっています。「焼き太刀を」は「砺波」の枕詞。「砺波の関」は、越中と越前の国境にあった関。「守部」は番人、ここでは関所の役人。
和歌の修辞技法
◆枕詞
序詞とともに万葉以来の修辞技法で、ある語句の直前に置いて、印象を強めたり、声調を整えたり、その語句に具体的なイメージを与えたりする。序詞とほぼ同じ働きをするが、枕詞は5音句からなる。
◆序詞(じょことば)
作者の独創による修辞技法で、7音以上の語により、ある語句に具体的なイメージを与える。特定の言葉や決まりはない。
◆掛詞(かけことば)
縁語とともに古今集時代から発達した、同音異義の2語を重ねて用いることで、独自の世界を広げる修辞技法。一方は自然物を、もう一方は人間の心情や状態を表すことが多い。
◆縁語(えんご)
1首の中に意味上関連する語群を詠みこみ、言葉の連想力を呼び起こす修辞技法。掛詞とともに用いられる場合が多い。
◆体言止め
歌の末尾を体言で止める技法。余情が生まれ、読み手にその後を連想させる。万葉時代にはあまり見られず、新古今時代に多く用いられた。
◆倒置法
主語・述語や修飾語・被修飾語などの文節の順序を逆転させ、読み手の注意をひく修辞技法。
◆句切れ
何句目で文が終わっているかを示す。万葉時代は2・4句切れが、古今集時代は3句切れが、新古今時代には初・3句切れが多い。
◆歌枕
歌に詠まれた地名のことだが、古今集時代になると、それぞれの地名が特定の連想を促す言葉として用いられるようになった。