大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

防人の歌(21)・・・巻第20-4407

訓読 >>>

ひな曇(くも)り碓氷(うすひ)の坂を越えしだに妹(いも)が恋しく忘らえぬかも

 

要旨 >>>

日が曇って薄日がさすという碓氷の坂、まだこの坂を越えたばかりなのに、無性に妻が恋しくて忘れられない。

 

鑑賞 >>>

 上野国の防人の歌。「ひな曇り」は、曇り日の薄日の意味で、同音の「碓氷」にかかる枕詞。「碓氷の坂」は、上野と信濃の国境の碓氷峠。その険しい山道は、東山道随一の難所とされていました。当時は、上野からは碓氷峠を越して信濃に入り、それから美濃へ出たようです。「しだに」は、だけでも、時に。

 徴発された防人は、難波津までの道のりを、防人部領使(さきもりのことりづかい)によって引率されますが、部領使は馬や従者を連れていますから、当人は馬に乗り、荷物も従者に持たせています。しかし、防人たちは自ら荷物を抱えての徒歩のみで、夜は寺院などに泊まることができなければ野宿させられました。