訓読 >>>
2657
神(かむ)なびにひもろき立てて斎(いは)へども人の心は守(まも)りあへぬもの
2658
天雲(あまくも)の八重雲(やへくも)隠(がく)り鳴る神(かみ)の音(おと)のみにやも聞きわたりなむ
要旨 >>>
〈2657〉神の森にひもろきを立てて、どんなに慎んでお祭りしてみても、人の心は守ることができない。
〈2658〉天雲の八重雲の奥から鳴り響く雷のように、噂だけを聞いて過ごしていくのだろうか。
鑑賞 >>>
「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」。2657の「神なび」は、神の宿るところ。「ひもろき」は、神霊の憑り給う木として植える常緑樹で、神坐。「斎へども」は、斎戒沐浴して神を祭っても。女の歌であり、男の心が頼み難いようすだったため、神なびにひもろ木を立てて神を祀り祈ったものの、それでも守りきれなかったと嘆いています。
2658の上3句は「音のみに聞く(噂だけに聞く)」を導く序詞。「鳴る神」は雷。「や」は疑問、「も」は詠嘆。女の、疎遠になった男への嘆きの歌で、窪田空穂は、「『天雲の八重雲隠り鳴る神の』は、女性に関する噂の高さに絡むところのあるものと取れる。恨むべくして恨んではいないことが注意される」と述べています。
※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について