大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

葦原の瑞穂の国に手向けすと・・・巻第13-3227~3229

訓読 >>>

3227
葦原(あしはら)の 瑞穂(みずほ)の国に 手向(たむ)けすと 天降(あも)りましけむ 五百万(いほよろづ)千万神(ちよろづかみ)の 神代(かむよ)より 言ひ継ぎ来(きた)る 神(かむ)なびの みもろの山は 春されば 春霞(はるかすみ)立ち 秋行けば 紅(くれなゐ)にほふ 神なびの みもろの神の 帯(お)ばせる 明日香(あすか)の川の 水脈(みを)早み 生(む)しためかたき 石枕(いしまくら) 苔(こけ)生(む)すまでに 新夜(あらたよ)の 幸(さき)く通(かよ)はむ 事計(ことはか)り 夢(いめ)に見せこそ 剣太刀(つるぎたち) 斎(いは)ひ祭(まつ)れる 神にしませば

3228
神なびのみもろの山に斎(いは)ふ杉 思ひ過ぎめや苔生すまでに

3229
斎串(いぐし)立て神酒(みわ)据(す)ゑ奉(まつ)る祝部(はふりへ)がうずの玉(たま)かげ見ればともしも

 

要旨 >>>

〈3227〉この葦原の瑞穂の国に、手向けをするために地上へと降りて来られた五百万千万(いおよろずちよろずかみ)の、その神代の昔から言い継がれてきた神の鎮座なさっている山は、春には春霞が立ち、秋には紅葉が照り輝く。その神が帯にしておられる明日香の川の、水の流れが速くて苔の生えにくい、その石の枕に苔が生す遠い日まで、夜になるたび幸福に通い続けられるような計らい、そんな計らいを夢にお示しください。身を清めて大切にお祀りしている、われらの神でいらっしゃるのであれば。

〈3228〉神の鎮座する山で、あがめ祀る杉ではないけれど、私の思いが消えて過ぎることなどない、杉が苔むすほどに年を経ようとも。

〈3229〉玉串立て、神酒(みき)を置いてお供えしている神主たちの髪飾りのひかげのかずら、それを見るとまことに立派で心惹かれる。

 

鑑賞 >>>

 新婚の二人の末永い幸を祈る、貴族の饗宴の歌とされます。3227の「葦原の瑞穂の国」は日本の国のこと。葦原の中にある、みずみずしい稲の実っている国という意味があります。「葦原の」は「瑞穂の国」の枕詞。「剣太刀」は「斎ひ祭る」の枕詞。「神なびのみもろの山」の所在については、奈良県明日香村の雷丘(いかづちのおか)とする説があります。なお、3229の歌は「或書には載することあるなし」との左注があり、前の2首が幾度も歌われているうちに加えられたのではないかといいます。