大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

はなはだも夜更けて・・・巻第10-2335~2336

訓読 >>>

2335
咲き出照(でて)る梅の下枝(しづえ)に置く露(つゆ)の消(け)ぬべく妹(いも)に恋ふるこのころ

2336
はなはだも夜更(よふ)けてな行き道の辺(へ)の斎笹(ゆささ)の上に霜(しも)の降る夜(よ)を

 

要旨 >>>

〈2335〉咲き出して照り輝く梅の、その下枝に降りた露が消え入るように、切なく彼女に恋い焦がれている今日このごろだ。

〈2336〉こんなにも夜が更けてから帰らないでください。道の辺の笹に霜が降りてくるようなこの夜に。

 

鑑賞 >>>

 2335は「露に寄せる」歌で、男が女に贈った歌。上3句は「消ぬ」を導く序詞。「咲き出照る」は、咲き出して美しく照る。

 2336は「霜に寄せる」歌。「はなはだも」は、とても、非常に。「な行き」の「な」は、禁止。「斎笹」の「斎」は斎む(忌む)のユ(イ)で、霊威があらわれている状態をいっています。雨に当たるのを忌むのと同様に、天から降ってきた霜のついた斎笹も霊威が強く、触れるのを恐れており、女は男を脅して引き留めようとしています。「通い婚」の時代にあって、このような、女が男の帰るのを惜しんでなるべく引き留めようとする歌はかなり多くあります。斎藤茂吉は、万葉の歌はこのように実質的、具体的だからいいので、後世の「きぬぎぬのわかれ」的に抽象化してはおもしろくない、と言っています。

 

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枕詞と序詞

 枕詞は和歌で使われる修辞技法の一つで、『万葉集』に多く見られます。ふつうは5音からなり、それぞれが決まった語について、語調や意味を整えたりします。ただし、枕詞自体は、語源や意味がわからないものが殆どです。

 序詞(じょことば)は和歌の修辞法の一つで、表現効果を高めるために譬喩・掛詞・同音の語などを用いて、音やイメージの連想からある語を導くものです。枕詞と同じ働きをしますが、枕詞が1句以内のおおむね定型化した句であるのに対し、序詞は一回的なものであり、音数に制限がなく、2句以上3、4句に及び、導く語への続き方も自由です。

『万葉集』掲載歌の索引