訓読 >>>
670
月読(つくよみ)の光に来ませあしひきの山き隔(へな)りて遠からなくに
671
月読(つくよみ)の光はきよく照らせれど惑(まと)へる心思ひあへなくに
要旨 >>>
670
月の光をたよりにおいでになって下さい。山を隔てて遠いというわけではないのですから。
671
月の光は清らかに照らしていますが、心が乱れて思いきることができません。
鑑賞 >>>
月見の宴での歌のやり取りとされます。670は湯原王(ゆはらのおおきみ)が女の立場になって詠んだ歌で、671はそれに応えた作者未詳の歌です。湯原王は志貴皇子の子で、兄弟に光仁天皇・春日王・海上女王らがいます。天平前期の代表的な歌人の一人で、父の透明感のある作風をそのまま継承し、またいっそう優美で繊細であると評価されています。
歌中の「月読」はここでは月の異名として使われていますが、「月読尊(つくよみのみこと)」は、日本神話に登場する「月の神」です。それによれば、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)と伊弉冉尊(いざなみのみこと)との間に、天照大神(あまてらすおおみかみ)、素戔嗚尊(すさのおのみこと)らと共に生まれ、父神に夜の食国(おすくに)の支配を命じられたとあります。農耕のために月齢を数えたため、転じて「月の神」の意になったようです。