大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

晩蝉は時と鳴けども・・・巻第10-1982

訓読 >>>

晩蝉(ひぐらし)は時と鳴けども恋(こ)ふるにし手弱女(たわやめ)われは時わかず泣く

 

要旨 >>>

ヒグラシは悲しく鳴くといっても時を定めていますが、恋している手弱女の私は、時に関係なく泣いています。

 

鑑賞 >>>

 カナカナ蝉とも呼ばれるヒグラシは、夏の終わりから秋へかけてのものと思われがちですが、実際には6月下旬から7月にかけて発生して、他のセミより早く鳴き始め、以後は9月の中ごろまで鳴き声を聞くことができるそうです。ただ、歌にもあるように、鳴く時間帯は基本的に朝夕だとされます。とくに暑い盛りの日の未明のころによく耳にしますが、あの、清涼感があり、一方で憂悶をかき立てられる鳴き声はとても味わい深いものです。

 ここでも、恋に悩む女が、ヒグラシの鳴く声に刺激されて、悲しみをいっそう深めています。「手弱女」は、か弱い女の意。ほかに、しなやかで優美な女性、たおやかな女の意もあり、歌の優美で女性的な風情を「たをやめぶり」ともいいます。