大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

かくのみし相思はずあらば・・・巻第13-3258~3259

訓読 >>>

3258
あらたまの 年は来(き)去りて 玉梓(たまづさ)の 使ひの来(こ)ねば 霞(かすみ)立つ 長き春日(はるひ)を 天地(あめつち)に 思ひ足(た)らはし たらちねの 母が飼(か)ふ蚕(こ)の 繭隠(まよごも)り 息づき渡り 我(あ)が恋ふる 心のうちを 人に言ふ ものにしあらねば 松が根の 待つこと遠み 天伝(あまづた)ふ 日の暮れぬれば 白栲(しろたへ)の 我(わ)が衣手(ころもで)も 通りて濡(ぬ)れぬ

3259
かくのみし相(あひ)思はずあらば天雲(あまくも)の外(よそ)にぞ君はあるべくありける

 

要旨 >>>

〈3258〉新しい年がやってきたというのに、あなたの使いはやってこないので、長い春の一日、天地にわが思いを満たして、母が飼う蚕(かいこ)が繭(まゆ)に籠るように、ふさぎこんでは、ため息ばかりついている。私が恋い焦がれる心の内は、人に言うべきものではないので、ひそかにお待ちするより仕方がないけれど、いくら待っても逢うめどもないまま、やがて日が暮れてきて、衣の袖も涙で濡れ通ってしまった。

〈3259〉こんなにも思って下さらないのなら、あなたは、はじめから天雲の彼方の人であればよかったのに。

 

鑑賞 >>>

 関係を結んでいた男から疎遠にされている女の嘆きをうたった歌。3258の「あらたまの」「玉梓の」「霞立つ」は、それぞれ「年」「使ひ」「春」の枕詞。「思ひ足らはし」は、思いを充満させて。「たらちねの」は「母」の枕詞。「たらちねの~繭隠り」は、「息づき渡り」を導く序詞。「繭隠り」は家に籠っていることの比喩。「松が根の」「天伝ふ」「白栲の」は、それぞれ「待つ」「日」「衣」の枕詞。3259の「天雲の」は「外」の枕詞。「外」は、遠く、無関係に。