大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

遣新羅使人の歌(9)・・・巻第15-3622~3624

訓読 >>>

3622
月読(つくよ)みの光りを清(きよ)み夕なぎに水手(かこ)の声呼び浦廻(うらみ)漕(こ)ぐかも

3623
山の端(は)に月(つき)傾(かたぶ)けば漁(いざ)りする海人(あま)の燈火(ともしび)沖になづさふ

3624
我(わ)れのみや夜船(よふね)は漕(こ)ぐと思へれば沖辺(おきへ)の方(かた)に楫(かぢ)の音(おと)すなり

 

要旨 >>>

〈3622〉月の光が清らかなので、夕なぎの中、舟乗りたちが声を掛け合って入江伝いに漕いでいく。

〈3623〉山の端に月が傾くと、漁をする海人の漁火が、沖の波間にただよっている。

〈3624〉我らだけがこの夜船を漕いでいると思っていたら、沖の方でも櫓を漕ぐ音がしている。

 

鑑賞 >>>

 長門の浦より船出する夜に、月の光を仰ぎ観て作った歌。「長門の浦」は、広島県呉市の南の倉橋島海上が安全であれば、夜間でも月の光を頼りに出発したようです。3622の「月読」は、月のこと。「水手の声呼び」は、水手が声をかけ合って。「浦廻」は、海岸が湾曲して入り組んだところ。3623の「なづさふ」は、浮き漂う。3624では、夜の海を航行する孤独のなかで、沖の方から聞こえてきた楫の音に、親愛と安らぎを感じています。