大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

防人の歌(14)・・・巻第20-4425

訓読 >>>

防人に行くは誰(た)が背(せ)と問ふ人を見るが羨(とも)しさ物思(ものも)ひもせず

 

要旨 >>>

防人に行くのはどなたのご主人と、問いかけている人を見ると羨ましい。何の物思いもしないで。

 

鑑賞 >>>

 題詞に「昔年の防人の歌」とある8首のうちの1首で、天平勝宝7年に大伴家持が収集したものより以前に作られていた防人歌です。磐余諸君(いわれのもろきみ)という官人によって写され、家持に贈られたとされます。

 国庁に集まった防人とその家族は、そこで防人編成の式に臨み、そのあと部領使に引率されて、陸路難波をめざしたのでした。この歌は作者未詳ながら、防人として旅立つ夫を見送る妻が詠んだ歌で、他人事として話している他の女と自分を対照させることで、なおいっそう心の苦衷があらわれています。「物思ひもせず」と止めた結句も不思議によい、と斎藤茂吉は言っています。秀歌として高く評価されている歌で、ただ、古いだけに、かなり都の人の手が入っており、方言もなく、都風になっています。