訓読 >>>
588
白鳥(しらとり)の飛羽山(とばやま)松の待ちつつぞ我(あ)が恋ひわたるこの月ごろを
589
衣手(ころもで)を打廻(うちみ)の里にある我(わ)れを知らにぞ人は待てど来(こ)ずける
要旨 >>>
〈588〉白鳥の飛ぶ飛羽山の松ではありませんが、あなたのおいでになるのを待ちながら、ずっと慕い続けています、この何ヶ月間も。
〈589〉打廻の里に私が住んでいることをご存知ないために、いくらお待ちしても来て下さらなかったのですね。
鑑賞 >>>
笠郎女(かさのいらつめ)が大伴家持に贈った歌。588の「白鳥の」は「飛ぶ」と続けて「飛羽山」の枕詞。「飛羽山」は、山城国の鳥羽山か。上2句が「待つ」を導く序詞。白鳥→飛ぶ→飛羽山松→待つと、韻と意味を巧みに転回させ、下句の恋の告白へと繋いでいます。「月ごろ」は、幾月か。589の「衣手」は、衣を打つことからくる「打廻」の枕詞。「打廻の里」は、所在未詳。「知らに」は、知らないので。家持が郎女の家を知らないはずはなく、家持があまりに疎遠にするので、恨みの気持ちからわざと誇張して言っています。588の歌と併せて贈ったものとみえます。