訓読 >>>
604
剣(つるぎ)太刀(たち)身に取り副(そ)ふと夢(いめ)に見つ何の兆(さが)そも君に逢はむため
605
天地(あめつち)の神の理(ことわり)なくはこそ我(あ)が思ふ君に逢はず死にせめ
606
我(わ)れも思ふ人もな忘れおほなわに浦(うら)吹く風のやむ時もなし
要旨 >>>
〈604〉昨夜、剣太刀を帯びる夢を見ました。何の兆しでしょうか。あなたに逢える兆しでしょうか。
〈605〉天地の神々に正しい道理がなければ、結局私は、あなたに逢えないまま死んでしまうでしょう。
〈606〉私もあなたを思っていますから、あなたも私のことを忘れないで下さい。浦にいつも吹いている風のように止む時もなく。
鑑賞 >>>
笠郎女が大伴家持に贈った歌。604の「剣太刀」は、諸刃の太刀。「兆」は、前兆。男の道具である剣太刀が身に添うということから家持に逢えるのだと判じているもののようです。605の「理」は、正しい判断。606の「な忘れ」の「な~(そ)」は、禁止。下に「な」がないのは古い形式。「おほなわに」は、語義未詳。