訓読 >>>
うち鼻(はな)ひ鼻をぞひつる剣大刀(つるぎたち)身に添ふ妹(いも)し思ひけらしも
要旨 >>>
くしゃみが出る、またくしゃみが出る。どうやら、腰に帯びる剣大刀のようにいつも寄り添ってくれている妻が、私のことを思ってくれているらしい。
鑑賞 >>>
「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」。「鼻ふ」は。くしゃみをする意。くしゃみは恋人に逢える前兆とされました。「剣太刀」は「身に添ふ」の枕詞。「けらし」は「ける・らし」の転。「らし」は根拠に基づく推定。
作者未詳歌
『万葉集』に収められている歌の半数弱は作者未詳歌で、未詳と明記してあるもの、未詳とも書かれず歌のみ載っているものが2100首余りに及び、とくに多いのが巻7・巻10~14です。なぜこれほど多数の作者未詳歌が必要だったかについて、奈良時代の人々が歌を作るときの参考にする資料としたとする説があります。そのため類歌が多いのだといいます。
7世紀半ばに宮廷社会に誕生した和歌は、7世紀末に藤原京、8世紀初頭の平城京と、大規模な都が造営され、さらに国家機構が整備されるのに伴って、中・下級官人たちの間に広まっていきました。「作者未詳歌」といわれている作者名を欠く歌は、その大半がそうした階層の人たちの歌とみることができ、東歌と防人歌を除いて方言の歌がほとんどないことから、機内圏のものであることがわかります。