大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

我が袖に霰た走る・・・巻第10-2312

訓読 >>>

我(わ)が袖(そで)に霰(あられ)た走(ばし)る巻き隠(かく)し消(け)たずてあらむ妹(いも)が見むため

 

要旨 >>>

私の袖にあられが降りかかってきて飛び散る。それを袖をに包み隠し、なくならないようにしよう。妻に見せたいから。

 

鑑賞 >>>

 『柿本人麻呂歌集』から「冬の雑歌」1首です。『万葉集』には題詞に人麻呂作とある歌が80余首あり、それ以外に『柿本人麻呂歌集』から採ったという歌が360余首あります。『柿本人麻呂歌集』は『万葉集』成立以前の和歌集で、人麻呂が2巻に編集したものとみられています。

 ただし、それらの中には明らかな別人の作や伝承歌もあり、すべてが人麻呂の作というわけではありません。題詞もなく作者名も記されていない歌がほとんどなので、それらのどれが人麻呂自身の歌でどれが違うかのかの区別もできません。

 「た走る」の「た」は接頭語で、走っている、激しく落ちる状態。激しく降りかかる状態。「巻き隠し」は、袖に巻いて隠して。妻のもとに通って行く途中に霰に逢い、自身珍しく面白く思うとともに、妻にもそれを見せようと言っています。窪田空穂は「若い人麿の何物も面白がり、心を躍らせるさまが断面的にみえる。この生趣は人麻呂のみのものである」と述べています。