大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

志賀の海女は藻刈り塩焼き・・・巻第3-278

訓読 >>>

志賀(しか)の海女(あま)は藻(め)刈り塩焼き暇(いとま)なみ櫛笥(くしげ)の小櫛(をぐし)取りも見なくに

 

要旨 >>>

志賀島の海女たちは、藻を刈ったり塩を焼いたりして暇がないので、櫛笥の小櫛を手に取って見ることもできずにいる。

 

鑑賞 >>>

 「志賀」は、博多湾志賀島。現在は陸続きになっています。「藻」は、海藻の総称。「櫛笥」は、櫛を入れる箱。「小櫛」の「小」は、接頭語。海人の女がその生業にあまりにも忙しく、女として大切な髪をいたわる暇もないことを嘆き憐れんでいます。『万葉集』で「海人」を詠んだ歌は66首あり、地名を冠して呼ばれることが多く、その大半は海人自身によるのではなく、都人が旅先で詠んだものとなっています。

 作者の石川君子は、神亀年間(724~729年)に大宰府の少弐に任じられており、実際に志賀島で働く海女たちを見て詠んだとみられます。都から来た男の目には、力強く働く海女たちの姿がたいそう珍しく、また、ダイナミックに見えたのでしょう。また、「櫛笥」を思い出したのは、10年ばかりも前、彼が播磨守だったころに愛した娘子が、別れの時に詠んだ歌「君なくはなぞ身装はむ櫛笥なる黄楊の小櫛も取らむとも思はず」(巻第9-1777)を思い起こしたのかもしれません。