訓読 >>>
うち日さす宮道(みやぢ)を人は満ち行けど我(あ)が思ふ君はただひとりのみ
要旨 >>>
都大路を人が溢れるほどに往来しているけれど、私が思いを寄せるお方はたったお一人っきりです。
鑑賞 >>>
『柿本人麻呂歌集』から「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。「うち日さす」は「宮」の枕詞。「宮道」は、藤原京の都大路とされます。官人の妻が、朝、出仕して宮道を行く夫を捉えての歌でしょうか。あるいは作家の田辺聖子は、次のように評しています。「愛の不思議にはじめて遭遇しておどろく、そのさまがういういしいので、まだ十代の恋だろうか。素直なおどろきが、忘れがたい思いを残す。『万葉集』には強い輝きを放つ大粒の宝石も多いが、こんなに小粒のダイヤのような、愛らしいのも多い」