大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

君が使を待ちし夜のなごりぞ・・・巻第12-2945

訓読 >>>

玉梓(たまづさ)の君が使(つかひ)を待ちし夜(よ)のなごりぞ今も寐(い)ねぬ夜(よ)の多き

 

要旨 >>>

あなたからのお使いを、いつもお待ちしていた夜の名残に違いありません。今でもなお寝られない夜が多いのは。

 

鑑賞 >>>

 「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。「玉梓の」は「使」の枕詞。梓の木などに手紙を結びつけて使者が相手に届けたことから用いられるようになった枕詞です。恋人と別れた後もなお残る生活習慣というのは、なかなかに切ないものです。

 この歌は、巻第11-2588の「夕されば君来まさむと待ちし夜のなごりぞ今も寐寝かてにする」が変化した歌とみられています。窪田空穂は、本歌の庶民的なものを、貴族的な生活様式に合わせようとしたものだろうと言っています。