大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

君が使を待ちし夜のなごりぞ・・・巻第12-2945

訓読 >>>

玉梓(たまづさ)の君が使(つかひ)を待ちし夜(よ)のなごりぞ今も寐(い)ねぬ夜(よ)の多き

 

要旨 >>>

あなたからのお使いを、いつもお待ちしていた夜の名残に違いありません。今でもなお寝られない夜が多いのは。

 

鑑賞 >>>

 「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。「玉梓の」は「使」の枕詞。梓の木などに手紙を結びつけて使者が相手に届けたことから用いられるようになった枕詞です。恋人と別れた後もなお残る生活習慣というのは、なかなかに切ないものです。

 この歌は、巻第11-2588の「夕されば君来まさむと待ちし夜のなごりぞ今も寐寝かてにする」が変化した歌とみられています。窪田空穂は、本歌の庶民的なものを、貴族的な生活様式に合わせようとしたものだろうと言っています。

 

万葉集』の歌番号

 『万葉集』の歌に歌番号が付されたのは、明治34~36年にかけて『国歌大観歌集部』(正編)が松下大三郎・渡辺文雄によって編纂されてからです。「正編」には、万葉集新葉和歌集・二十一代集・歴史歌集・日記草紙歌集・物語歌集を収め、集ごとに歌に番号が付されました。これによって、国文学者らは、いずれの国書にでている和歌なのかをたちどころに知ることができるようになりました。『万葉集』の歌には、1から4516までの番号が付されています。ただ、当時のテキストとなった底本は流布本であり、またそれまでの研究が不十分だったために、一首の長歌を二分して二つの番号を付す誤りや、「或本歌」の取り扱いなどの問題もあり、4516という数字が『万葉集』の歌の正確な総数というわけではありません。しかし、ただ番号を付すというそれだけのことで、その後の国文学研究は大きく進展したのです。