大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

春日なる御笠の山に・・・巻第7-1295

訓読 >>>

春日(かすが)なる御笠(みかさ)の山に月の舟(ふね)出(い)づ遊士(みやびを)の飲む酒杯(さかづき)に影に見えつつ

 

要旨 >>>

春日の三笠の山に、船のような月が出た。風流な人たちが飲む酒杯の中に映り見えながら。

 

鑑賞 >>>

 巻第7の「旋頭歌」の部の最後におかれたこの一首は、『柿本人麻呂歌集』からの歌や作者未詳歌が多い中にあって異彩を放つ歌となっています。庶民生活の味わいが濃く出ていた人麻呂歌集の歌とは違い、繊細美を愛する貴族趣味が横溢しています。詠まれた時代も奈良時代であり、歌の趣きからも明らかです。大伴家持の周辺の人々を思わせるもので、あるいは家持の作かもしれないといわれています。「春日なる」は、春日にある。「御笠の山」は平城京から見て東にある山なので、月の出を待つ山。「月の舟」は、三日月の比喩。月の形が舟に似ているところから。「遊士」は、都風の風雅を解する人。「影に見えつつ」は、姿を見せ続けている。