訓読 >>>
天(あめ)にある日売菅原(ひめすがはら)の草な刈りそね 蜷(みな)の腸(わた)か黒(ぐろ)き髪に芥(あくた)し付くも
要旨 >>>
天にある日に因む、この日賣菅原の草を刈らないでくれ。せっかくの美しい黒髪にゴミが付いてしまうではないか。
鑑賞 >>>
『柿本人麻呂歌集』から、旋頭歌形式(5・7・7・5・7・7)の歌。「天にある」は天上の日の意で、「日売菅原」の枕詞。「日売菅原」は地名か、あるいは姫菅(ひめすげ:カヤツリグサ科の多年草)の生える野原の意か。ここでは共寝をする場所として言っています。「草な刈りそね」の「な~そね」は禁止。「蜷の腸」は「か黒き」の枕詞。「か黒き」の「か」は接頭語。「芥」は、ごみ。「し」は強意。前句で「天にある日売菅原」といって天上世界の聖婚の場を想起させながら、後句では草を刈ってはならない理由を、共寝する女の髪に芥、すなわちゴミがつくからと卑俗的なことを言っており、前句と後句の落差に面白さのある歌となっています。