大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

遣新羅使人の歌(20)-3671~3673

訓読 >>>

3671
ぬばたまの夜(よ)渡る月にあらませば家なる妹(いも)に逢ひて来(こ)ましを

3672
ひさかたの月は照りたり暇(いとま)なく海人(あま)の漁(いざ)りは灯(とも)し合へり見(み)ゆ

3673
風吹けば沖つ白波(しらなみ)畏(かしこ)みと能許(のこ)の亭(とまり)にあまた夜(よ)ぞ寝(ぬ)る

 

要旨 >>>

〈3671〉私が夜空を渡っていく月であったならば、家にいる妻に逢いに行き、またここに帰ってくるものを。

〈3672〉月が皎々と照っている。片や、絶え間もなく、漁師たちの漁火が、海の上で灯し合っている。

〈3673〉風が吹いていて、沖の白波が恐ろしさに、能許の停泊地で幾夜も過ごしている。

 

鑑賞 >>>

 筑前国志麻郡の韓亭に停泊した時の歌。「韓亭」は、福岡市西区宮浦唐泊とされ、唐泊の港は、かつては遣新羅使や遣隋使、遣唐使などの航路の中継港として栄えました。3671の「ぬばたまの」は「夜」の枕詞。「ませば~まし」は、反実仮想。3672の「ひさかたの」は「空」の枕詞であるのを「空」の意に転じさせたもの。「暇なく」は、絶え間なく。3673の「畏みと」は、恐ろしさに。「能許」は、博多湾内の能古島。韓亭と能古島に分宿したのか、あるいは前面に能古島があるので言い換えたのでしょうか。