大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

ともしびの明石大門に・・・巻第3-254

訓読 >>>

ともしびの明石(あかし)大門(おほと)に入(い)らむ日や榜(こ)ぎ別れなむ家のあたり見ず

 

要旨 >>>

明石の海門を通過するころには、いよいよ家郷の大和の山々とも別れることとなるのだ。

 

鑑賞 >>>

 柿本人麻呂が、船旅の途上で読んだ歌です。「ともしびの」は「明石」の枕詞。「明石大門」は明石市と淡路島との間の海峡、すなわち明石海峡です。柿本人麻呂生没年未詳ながら、『万葉集』最大の歌人とされ、持統~文武期にかけて宮廷歌人の第一人者として認められていた人らしく、公的な儀礼や宴の場で多くの歌を残しています。ただし、宮人としては下級で、万葉集以外に所伝はありません。

 なお、この歌について、斎藤茂吉は次のように評しています。

 第4句で「榜ぎ別れなむ」と切って、結句で「家のあたり見ず」と独立的にしたのは、その手腕敬憬すべきである。由来、「あたり見ず」というような語には、文法的にも毫も詠嘆の要素が無いのである。「かも」とか「けり」とか、「はや」とか「あはれ」とか云って始めて詠嘆の要素が入ってくるのである。文法的にはそうなのであるが、歌の声調方面からいうと、響きから論ずるから、「あたり見ず」で十分詠嘆の響きがあり、結句として「かも」とか「けり」とかに匹敵するだけの効果をもっているのである。

 

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