大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

安見児得たり!!!・・・巻第2-95

訓読 >>>

吾(あれ)はもや安見児(やすみこ)得たり皆人(みなひと)の得がてにすとふ安見児得たり

 

要旨 >>>

私は今まさに、美しい安見児を娶(めと)った。世の人々が容易には得られない、美しい安見児を娶ったぞ!

 

鑑賞 >>>

 藤原鎌足といえば、歴史の授業でもおなじみの人物で、大化の改新で活躍し、藤原氏の始祖となった人です。この歌は、内大臣となった鎌足が、采女(うねめ)の安見児(やすみこ)という女性を娶ったときに詠んだ歌です。

 采女というのは、天皇の食事に奉仕した女官のことで、郡の次官以上の者の子女・姉妹の中から容姿に優れた者が選ばれました。身分の高い女性ではなかったものの、天皇の寵愛を受ける可能性があったため、天皇以外は近づくことができず、臣下との結婚は固く禁じられていました。

 この歌は、鎌足が安身児という采女を我が物にした喜びの歌であり、もちろん天智天皇の許しを得てのことでしょう。「安見児得たり」を2度繰り返しているなど、我を忘れて欣喜雀躍している姿が目に浮かぶようです。鎌足もやっぱり、純真で闊達な健康男子!

 ただし、この歌が詠まれた背景には次のような事情があったと見る向きもあります。当時、天智天皇大友皇子を後継者にしたいと考えていたものの、大友の母は采女の出身で、身分的な問題があった。そこで天智は鎌足に安見児を与え、さらにこの歓びの歌を満座で披露させることによって、采女に対する評価を高めようとした、というものです。

 

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当ブログ制作にあたっての参考文献

『NHK100分de名著ブックス万葉集』~佐佐木幸綱/NHK出版
大伴家持』~藤井一二/中公新書
『古代史で楽しむ万葉集』~中西進/KADOKAWA
『誤読された万葉集』~古橋信孝/新潮社
『新版 万葉集(一~四)』~伊藤博/KADOKAWA
田辺聖子の万葉散歩』~田辺聖子/中央公論新社
超訳 万葉集』~植田裕子/三交社
『日本の古典を読む 万葉集』~小島憲之/小学館
『ねずさんの奇跡の国 日本がわかる万葉集』~小名木善行/徳間書店
『万葉秀歌』~斎藤茂吉/岩波書店
万葉集講義』~上野誠/中央公論新社
万葉集と日本の夜明け』~半藤一利/PHP研究所
萬葉集に歴史を読む』~森浩一/筑摩書房
万葉集のこころ 日本語のこころ』~渡部昇一/ワック
万葉集の詩性』~中西進/KADOKAWA
万葉集評釈』~窪田空穂/東京堂出版
『万葉樵話』~多田一臣/筑摩書房
『万葉の旅人』~清原和義/学生社
『万葉ポピュリズムを斬る』~品田悦一/講談社
『私の万葉集(一~五)』~大岡信/講談社