訓読 >>>
なでしこは咲きて散りぬと人は言へど我(わ)が標(し)めし野の花にあらめやも
要旨 >>>
なでしこは咲いて散ったと人は言いますが、私が標をした野のなでしこでしょうか、そんなはずはない。
鑑賞 >>>
大伴家持が、紀女郎に贈った歌。「標め」は、自分のものとしてつける目印。「あらめやも」の「やも」は、反語。あるはずがない。なでしこを女郎に譬え、「他人は心変わりのことを色々と言うけれど、あなたは心変わりするはずはないですよね」との意味が込められています。女郎の答えた歌は載っていません。
詩人の大岡信は、家持と紀女郎の関係を歌から推測し(とくに1460・1461)、笠女郎などの場合とは違って、紀女郎は、性的な関係においてもおそらく満足すべき間柄を持ち得た女性だったろうと言っています。「彼女は家持よりだいぶ年上だったと想像されるものの、家持にとってはきわめて快適な、成熟した女だったと思われる。機知に富み、男を手玉に取ることも心得ているうえに、気配りのいい女性だったと想像されるからだ」と。作家の大嶽洋子も、「快適で、成熟した関係」と評しています。
家持の恋人たち
青春期の家持に相聞歌を贈った、または贈られた女性は次のようになります。
大伴坂上大嬢 ・・・巻第4-581~584、727~755、765~768ほか
笠郎女(笠女郎とも) ・・・巻第3-395~397、巻第4-587~610ほか
山口女王 ・・・巻第4-613~617、巻第8-1617
大神女郎 ・・・巻第4-618、巻第8-1505
中臣女郎 ・・・巻第4-675~679
娘子 ・・・巻第4-691~692
河内百枝娘子 ・・・巻第4-701~702
巫部麻蘇娘子 ・・・巻第4-703~704
日置長枝娘子 ・・・巻第8-1564
妾 ・・・巻第4-462、464~474
娘子 ・・・巻第4-700
童女 ・・・巻第4-705~706
粟田女娘子 ・・・巻第4-707~708
娘子 ・・・巻第4-714~720
紀女郎 ・・・巻第4-762~764、769、775~781ほか
娘子 ・・・巻第4-783
安倍女郎 ・・・巻第8-1631
平群女郎 ・・・巻第17-3931~3942