訓読 >>>
十月(かむなづき)時雨(しぐれ)にあへる黄葉(もみちば)の吹かば散りなむ風のまにまに
要旨 >>>
十月の時雨にあって色づいたもみじの葉は、風が吹いたらそのままにに散ってしまうことだろう。
鑑賞 >>>
大伴池主(おおとものいけぬし)の歌、池主は大伴家持の同族で、生没年不詳ながら、天平18年(746年)ころ、越中守だった家持の配下にあり、家持との間に交わした歌を多く残しています。
後に越中掾(じょう:国司の第3等官)に転じ、さらに中央官として都に帰っています。記録の上では、家持との交流は20年に及び、さらに少年期にまで遡れば、2人は30年来の知己だったのではないかともいわれます。しかし、天平勝宝9年(757年)の橘奈良麻呂の変に加わって捕縛され、その後の消息が分からなくなっています。『万葉集』には29首の歌を残しており、勅撰歌人として『新勅撰和歌集』にも1首入集。漢詩もよくし、その才能は家持を上回っていたともいわれます。
この歌は、天平10年(738年)10月、右大臣・橘奈良麻呂の邸宅で開かれた宴会で詠まれた歌11首とある中の1首です。橘奈良麻呂は橘諸兄の子で、諸兄の死後、光明皇后を後ろ盾として勢力を拡大してきた藤原仲麻呂を廃するため、757年、大伴氏、佐伯氏などと結びクーデターを計画しましたが、発覚して捕らえられ、獄中で没しました。
各巻の主な作者
巻第1
雄略天皇/舒明天皇/中皇命/天智天皇/天武天皇/持統天皇/額田王/柿本人麻呂/高市黒人/長忌寸意吉麻呂/山上憶良/志貴皇子/長皇子/長屋王
巻第2
磐姫皇后/天智天皇/天武天皇/藤原鎌足/鏡王女/久米禅師/石川女郎/大伯皇女/大津皇子/柿本人麻呂/有馬皇子/長忌寸意吉麻呂/山上憶良/倭大后/額田王/高市皇子/持統天皇/穂積皇子/笠金村
巻第3
柿本人麻呂/長忌寸意吉麻呂/高市黒人/大伴旅人/山部赤人/山上憶良/笠金村/湯原王/弓削皇子/大伴坂上郎女/紀皇女/沙弥満誓/笠女郎/大伴駿河麻呂/大伴家持/藤原八束/聖徳太子/大津皇子/手持女王/丹生王/山前王/河辺宮人
巻第4
額田王/鏡王女/柿本人麻呂/吹黄刀自/大伴旅人/大伴坂上郎女/聖武天皇/安貴王/門部王/高田女王/笠女郎/笠金村/湯原王/大伴家持/大伴坂上大嬢
巻第6
笠金村/山部赤人/車持千年/高橋虫麻呂/山上憶良/大伴旅人/大伴坂上郎女/湯原王/市原王/大伴家持/田辺福麻呂
巻第7
作者未詳/柿本人麻呂歌集
巻第8
舒明天皇/志貴皇子/鏡王女/穂積皇子/山部赤人/湯原王/市原王/弓削皇子/笠金村/笠女郎/大原今城/大伴坂上郎女/大伴家持
巻第9
柿本人麻呂歌集/高橋虫麻呂/田辺福麻呂/笠金村/播磨娘子/遣唐使の母
巻第10~13
作者未詳/柿本人麻呂歌集
巻第14
作者未詳
巻第16
穂積親王/境部王/長忌寸意吉麻呂/大伴家持/陸奥国前采女/乞食者
巻第17
橘諸兄/大伴家持/大伴坂上郎女/大伴池主/大伴書持/平群女郎
巻第18
橘諸兄/大伴家持/大伴池主/田辺福麻呂/久米広縄/大伴坂上郎女
巻第19
大伴家持/大伴坂上郎女/久米広縄/蒲生娘子/孝謙天皇/藤原清河
巻第20
大伴家持/大原今城/防人等