大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

めづらしき君が家なる花すすき・・・巻第8-1600~1601

訓読 >>>

1600
妻恋(つまご)ひに鹿(か)鳴く山辺(やまへ)の秋萩(あきはぎ)は露霜(つゆしも)寒(さむ)み盛り過ぎゆく

1601
めづらしき君が家(いへ)なる花すすき穂(ほ)に出(い)づる秋の過ぐらく惜(を)しも

 

要旨 >>>

〈1600〉妻を恋い慕って牡鹿が鳴く山辺の秋萩は、露霜の寒さに盛りを過ぎ色褪せていく。

〈1601〉親愛なるあなたの家の花すすきがいっせいに穂を出している秋、その秋が過ぎ去ってゆくのが惜しくてならない。

 

鑑賞 >>>

 石川広成(いしかわのひろなり)の歌。天平15年(743年)頃に内舎人天平宝字2年(758)8月に従六位上から従五位下、同4年2月に高円朝臣を賜姓された人で、『万葉集』には3首の歌が残っています。

 この歌は天平15年(743年)秋、恭仁京にあっての作とされます。1601の「めづらしき」は親愛なる、懐かしい。「君」は友のこと。「花すすき」は薄(すすき)の穂を花に見立てての称ながら、この用例は集中この1首のみです。山野に群生して風になびく姿や、萩や月とともに眺める薄の風情は古くから愛され、尾花や萱などの呼称も合わせると、薄は『万葉集』に46首も詠われています。