大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

木の暗の茂き峰の上を・・・巻第20-4305

訓読 >>>

木(こ)の暗(くれ)の茂(しげ)き峰(を)の上(へ)を霍公鳥(ほととぎす)鳴きて越ゆなり今し来(く)らしも

 

要旨 >>>

木々のうっそうと繁る峰の上を、ホトトギスが鳴きながら越えている。今にもこちらまでやって来そうだ。

 

鑑賞 >>>

 4月、大伴家持が霍公鳥を詠んだ歌。「木の暗」は、木が茂って暗いところ。「今し」の「し」は強意。「来らしも」の「らし」は、確かな根拠にもとづく推定。「も」は詠嘆。

 4305について斎藤茂吉は、「気軽に作った独詠歌だが、流石に練れていて旨いところがある。それは、『鳴きて越ゆなり』と現在をいって、それに主点を置いたかと思うと、おのずからそれに続くべき、第二の現在『今し来らしも』と置いて、一首の一番大切な感慨をそれに寓せしめたところが旨いのである」と評しています。また、やや自在境に入りかかっている、とも。

 

霍公鳥の故事

 霍公鳥(ホトトギス)は、特徴的な鳴き声と、ウグイスなどに托卵する習性で知られる鳥で、『万葉集』には153首も詠まれています(うち大伴家持が65首)。霍公鳥には「杜宇」「蜀魂」「不如帰」などの異名がありますが、これらは中国の故事や伝説にもとづきます。

 ―― 長江流域に蜀(古蜀)という貧しい国があり、そこに杜宇(とう)という男が現れ、農耕を指導して蜀を再興、やがて帝王となり「望帝」と呼ばれた。後に、長江の治水に長けた男に帝位を譲り、自分は山中に隠棲した。杜宇が亡くなると、その霊魂はホトトギスに化身し、農耕を始める季節が来ると、鋭く鳴いて民に告げた。また後に蜀が秦によって滅ぼされてしまったことを知った杜宇の化身のホトトギスは、ひどく嘆き悲しみ、「不如帰去」(帰り去くに如かず。= 帰りたい)と鳴きながら血を吐くまで鳴いた。ホトトギスの口の中が赤いのはそのためだ、と言われるようになった。――