大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

朝床に聞けば遥けし・・・巻第19-4150

訓読 >>>

朝床(あさとこ)に聞けば遥(はる)けし射水川(いみづがは)朝漕ぎしつつ唄(うた)ふ舟人

 

要旨 >>>

うつらうつらとする朝床の中で耳を澄ますと、遙かな射水川を、朝漕ぎしながら唄う舟人の声が聞こえてくる。

 

鑑賞 >>>

 大伴家持越中の国守時代に詠んだ歌。題詞には「江(かは)を泝(さかのぼ)る舟人の唄を遥かに聞く」とあります。この遥聞・泝江・舟人のいずれもが、中国文学(とくに漢詩)に見られる漢語であり、それらをそのまま取り込んだような歌になっています。漢詩の世界を和歌に置き換えて詠むという家持の和歌の特徴がよくあらわれた作として評価されています。「射水川」は、富山県を流れる小矢部川

 この歌について、作家の田辺聖子は次のように述べています。「何とはない幸せの倦怠感のようなものがあって、印象的である。・・・その幸福感に淡い憂愁が貼り合わされてデリケートな色調を生み、それが読む者の心に更に光耀をひきおこす。しらべも流麗で、私はこの、一見何ということない歌がなつかしくて好もしい」