大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

いにしへの古き堤は年深み・・・巻第3-378

訓読 >>>

いにしへの古き堤(つつみ)は年深み池の渚(なぎさ)に水草(みくさ)生(お)ひにけり

 

要旨 >>>

昔栄えた邸の庭の古い堤は、長い年月を重ね、池のみぎわには水草が生い繁っている。

 

鑑賞 >>>

 題詞に「故(すぎにし)太政大臣藤原家の山池(しま)を詠む」歌とあり、藤原不比等が没した10年以上の後に山部赤人が詠んだ鎮魂歌です。何かの行事に際しての訪問だったと見られます。不比等が薨じた時(720年)は正二位右大臣でしたが、薨後に正一位太政大臣を賜りました。「藤原家」とあるのは諱(いみな)を書くのを憚った言い方で、尊称です。「山池」は、築山や池のある庭園のこと。

 赤人は往時の不比等を目にしていた、あるいは不比等の生前にこの邸を訪れたことがあったらしく、その旧居の庭園の荒廃ぶりを見て、時の移ろいの悲しみを強く感じ、それを具象的に表さずにはいられなくなったのでしょう。しかしながら、直接的に感傷を述べることを避け、また強い調べによることもできず、静かながらも細やかにその思いを表しています。