大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

足柄の箱根飛び越え・・・巻第7-1175

訓読 >>>

足柄(あしがら)の箱根(はこね)飛び越え行く鶴(たづ)の羨(とも)しき見れば大和し思ほゆ

 

要旨 >>>

足柄の箱根の山を飛び越えて行く鶴の、その羨ましいのを見ると、大和が恋しく思われる。

 

鑑賞 >>>

 「覊旅(旅情を詠む)」歌。「足柄」は、神奈川県と静岡県の県境にある足柄山や足柄峠付近の地。「箱根」は足柄の地に属し、険阻で、難所とされました。当時は、険しい箱根山を迂回するため、その北側にある足柄峠越えの道が使われ、そこには「荒ぶる神が住む」といって恐れたといいます。『万葉集』には、足柄・箱根の歌が17首収められており、峠の恐ろしい神を詠んだ歌や、行き倒れになって死んだ人を悼む長歌も残されています。

 この歌のように、旅の途上で、恋しい家の方へ飛んでいく鳥を見て羨む歌は類想の多いものです。作者は、おそらく鶴と反対方向の東国に下っていたのでしょう。当時は、旅と言っても官命を帯びたものが殆どでしたから、この歌もその折に詠まれたものでしょう。言葉の様子や未練から考えて、高い地位の役人ではなく、その随行者あたりの人かと思われます。