大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

天の原振り放け見れば・・・巻第3-289~290

訓読 >>>

289
天(あま)の原(はら)振(ふ)り放(さ)け見れば白真弓(しらまゆみ)張りて懸(か)けたり夜道(よみち)はよけむ

290
倉橋(くらはし)の山を高みか夜隠(よごもり)に出で来(く)る月の光(ひかり)乏(とも)しき

 

要旨 >>>

〈289〉大空を遠く振り仰いで見ると、三日月が白い立派な弓を張って輝いている。この分なら、夜道は大丈夫だろう。

〈290〉倉橋の山が高いゆえか、夜遅くなってから出てくる月の光の乏しいことよ。

 

鑑賞 >>>

 題詞に「間人宿祢大浦(はしひとのすくねおおうら:伝未詳)の初月(みかづき)の歌」とあります。「初月」は、新月(陰暦3日の夜の月、三日月)。289の「白真弓」は、白木の檀(まゆみ)で作った弓。弦を張った弓の形を三日月に譬えています。ただし、三日月は日没のすぐ後に沈んでしまうため、歌の内容には矛盾があります。

 290の「倉橋山」は、奈良県桜井市倉橋の音羽山か。「山を高みか」の「か」は疑問で、山が高いゆえか。「夜隠」は、暁がまだ夜に隠れて明けきらない状態。このころに出る月は20日以後なので、「初月の歌」というのは、289についてのみの題詞とされます。あるいは、「初」は誤入の文字であり、どちらの歌も初月を詠んでいるとはいえないとの見方もあります。いずれにしても、これら2首は、恋人のもとに急ぐ夜道に月の光を頼ろうとする気持ちを詠っており、これから明るさを増す月に心強さを感じる1首目と、出る時刻も遅く乏しくなってきた月の光に心細さを感じる2首目を対比的に詠んでいます。