大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

射ゆ鹿を認ぐ川辺の・・・巻第16-3874

訓読 >>>

射(い)ゆ鹿(しし)を認(つな)ぐ川辺(かはへ)のにこ草(ぐさ)の身の若(わか)かへにさ寝(ね)し子らはも

 

要旨 >>>

射られた手負い鹿の跡を追っていくと、川辺ににこ草が生えていた。そのにこ草のように若かった日に、あの子と寝たのが忘れられない。

 

鑑賞 >>>

 年配の男の歌。上3句は「身の若かへに」を導く序詞。「射ゆ鹿」は、弓で射られた手負いの鹿。この時代、鹿狩りは、天皇から狩人まで上下の身分を問わず好まれた狩猟でした。「認ぐ」は、足跡を追っていく。「にこ草」は、若くてやわらかい草。「若かへ」は、語義未詳ながら、若いころの意か。「子らはも」の「子ら」は複数形ではなく、男性が女性を親しんで呼ぶ語。二度と戻らない、青春時代の恋人との甘美な思い出に浸っています。