大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

窓越しに月おし照りて・・・巻第11-2679

訓読 >>>

窓越しに月おし照りてあしひきの嵐(あらし)吹く夜(よ)は君をしぞ思ふ

 

要旨 >>>

窓越しに月の光が明るく差し込んできて、山から嵐が吹きすさぶ夜は、あの方のことを思いつめています。

 

鑑賞 >>>

 斎藤茂吉は、この歌の「窓越しに月おし照りて」の句に心惹かれると言っています。普通「窓越しに月照る」というと、窓外の庭あたりに月の照る趣に解するが、「おし照る」が作用をあらわしたから、月光が窓から部屋まで差し込んでくることとなり、まことに旨い言い方である、と。

 「あしひきの」は「嵐」の枕詞。「山」や山を含む語にかかることが多い枕詞ですが、ここでは「嵐」にかかっています。語義は、足を引いてあえぎつつ登る意、山すそを長く引く意など諸説あるようです。

 

作者未詳歌

 『万葉集』に収められている歌の半数弱は作者未詳歌で、未詳と明記してあるもの、未詳とも書かれず歌のみ載っているものが2100首余りに及び、とくに多いのが巻7・巻10~14です。なぜこれほど多数の作者未詳歌が必要だったかについて、奈良時代の人々が歌を作るときの参考にする資料としたとする説があります。そのため類歌が多いのだといいます。

 7世紀半ばに宮廷社会に誕生した和歌は、7世紀末に藤原京、8世紀初頭の平城京と、大規模な都が造営され、さらに国家機構が整備されるのに伴って、中・下級官人たちの間に広まっていきました。「作者未詳歌」といわれている作者名を欠く歌は、その大半がそうした階層の人たちの歌とみることができ、東歌と防人歌を除いて方言の歌がほとんどないことから、機内圏のものであることがわかります。

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