大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

思ひ遣るすべの知らねば・・・巻第4-707~708

訓読 >>>

707
思ひ遣(や)るすべの知らねば片垸(かたもひ)の底にぞ我(あ)れは恋ひ成りにける

708
またも逢はむよしもあらぬか白栲(しろたへ)の我(あ)が衣手(ころもで)に斎(いは)ひ留(とど)めむ

 

要旨 >>>

〈707〉思いを晴らす手だてが分からないまま、片垸(かたもい)の器の底に沈んで、片思いをするようになりました。

〈708〉再びお逢いする機会がないものでしょうか。今度こそ真っ白な着物の袖の中に、あなたを大切につなぎとめておきましょう。

 

鑑賞 >>>

 粟田女娘子(あわためのおとめ:伝未詳)が大伴家持に贈った歌2首です。707の「思ひ遣るすべの知らねば」は、思いを晴らす手立てを知らないので。「片垸」は蓋のない土製の茶椀で、「片思い」を掛けています。注記に「片垸の中に注す」とあり、片垸の底にこの歌を書いて贈ったもののようです。おそらく自分で土をこねて作ったのでしょう、不格好だったかもしれませんが、とても愛嬌のある贈り物です。

 708の「よしもあらぬか」は、機会はないだろうか。「も~ぬか」は、願望。「白栲の」は「衣」の枕詞。「斎ひ」は、神聖なものとして大切にする。