大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

うつせみの常の辞と思へども・・・巻第12-2961

訓読 >>>

うつせみの常(つね)の辞(ことば)と思へども継(つ)ぎてし聞けば心(こころ)惑(まど)ひぬ

 

要旨 >>>

世間の通りいっぺんの言葉だとは思いますが、続けて何度も聞くと、心は乱れてしまいます。

 

鑑賞 >>>

 女が男の求婚に答えた歌です。「うつせみの常の辞」は、世間の通りいっぺんの言葉。男が言ってくるのを、常に女に言い寄るときの言葉だとして警戒し、また当てにしていなかったのが、あまりに何度も何度も言われるので、しだいに心が動いていく女心が歌われています。しかし、まだ若干の不安も残っています。

 

作者未詳歌

 『万葉集』に収められている歌の半数弱は作者未詳歌で、未詳と明記してあるもの、未詳とも書かれず歌のみ載っているものが2100首余りに及び、とくに多いのが巻7・巻10~14です。なぜこれほど多数の作者未詳歌が必要だったかについて、奈良時代の人々が歌を作るときの参考にする資料としたとする説があります。そのため類歌が多いのだといいます。

 7世紀半ばに宮廷社会に誕生した和歌は、7世紀末に藤原京、8世紀初頭の平城京と、大規模な都が造営され、さらに国家機構が整備されるのに伴って、中・下級官人たちの間に広まっていきました。「作者未詳歌」といわれている作者名を欠く歌は、その大半がそうした階層の人たちの歌とみることができ、東歌と防人歌を除いて方言の歌がほとんどないことから、機内圏のものであることがわかります。