大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

梓弓末は知らねど・・・巻第12-3149~3150

訓読 >>>

3149
梓弓(あづさゆみ)末(すゑ)は知らねど愛(うるは)しみ君にたぐひて山道(やまぢ)越え来(き)ぬ

3150
霞(かすみ)立つ春の長日(ながひ)を奥処(おくか)なく知らぬ山道(やまぢ)を恋ひつつか来(こ)む

 

要旨 >>>

〈3149〉行く末がどうなるのか分かりませんが、いとしいあまり、あなたに寄り添って山道を越えてやって来ました。

〈3150〉霞が立つ春の長い一日を、あてどもなく勝手も分からない山道を、あの人を恋いつつ歩き続けるのでしょうか。

 

鑑賞 >>>

 「羈旅発思(旅にあって思いを発した歌)」2首。いずれも女の歌です。3149の「梓弓」は「末」の枕詞。「末は知らねど」は、将来どうなるか分からないがの意。任地へ赴く夫に連れられて旅に出た、結婚後間もない女の歌とみられます。一抹の不安にかられながらも、一切を夫に任せている気持ちが窺えます。

 3150の「霞立つ」は「春」の枕詞。「奥処なく」は、あてどもなく。遠い任地にいる夫のもとへ行こうとしている妻の歌でしょうか。窪田空穂は「純気分の歌であるが、それをとおして情景の浮かび出る歌である。『霞立つ』という枕詞が叙景となり、『奥処なく』の抒情と溶け合う趣が、一首全体にある。奈良朝の教養ある人の歌である」と評しています。