訓読 >>>
若草の新手枕(にひたまくら)をまきそめて夜(よ)をや隔てむ憎くあらなくに
要旨 >>>
新妻の手枕をまき始めて、これから幾夜も逢わずにいられようか、可愛くて仕方ないのに。
鑑賞 >>>
「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。「若草の」は「新手枕」の枕詞。なお、結句の「憎くあらなくに」の原文は「二八十一不在國」と書かれており、「二八十一」の「八十一」を、九九=八十一であることから「くく」と読ませています。それで「に・くく」。まるでとんちクイズのようですが、このように本来の意味とは異なる意味の漢字をあてて読ませることを「戯書(ぎしょ)」といいます。また、この時代から掛け算の九九があったことにも驚かされますが、すでに奈良時代以前に中国から伝わっていたといいます。そして、平安時代には貴族の教養の一つとされていたようです。九九を練習した跡が残る木簡が各地で出土しており、中には「八九、七十四」と間違えているものもあり、懸命に練習した様子が窺えるそうです。
『万葉集』の歌番号
『万葉集』の歌に歌番号が付されたのは、明治34~36年にかけて『国歌大観歌集部』(正編)が松下大三郎・渡辺文雄によって編纂されてからです。「正編」には、万葉集・新葉和歌集・二十一代集・歴史歌集・日記草紙歌集・物語歌集を収め、集ごとに歌に番号が付されました。これによって、国文学者らは、いずれの国書にでている和歌なのかをたちどころに知ることができるようになりました。『万葉集』の歌には、1から4516までの番号が付されています。ただ、当時のテキストとなった底本は流布本であり、またそれまでの研究が不十分だったために、一首の長歌を二分して二つの番号を付す誤りや、「或本歌」の取り扱いなどの問題もあり、4516という数字が『万葉集』の歌の正確な総数というわけではありません。しかし、ただ番号を付すというそれだけのことで、その後の国文学研究は大きく進展したのです。