大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

防人の歌(33)・・・巻第14-3569~3571

訓読 >>>

3569
防人(さきもり)に立ちし朝明(あさけ)の金門出(かなとで)に手離(たばな)れ惜しみ泣きし児(こ)らはも

3570
葦(あし)の葉に夕霧(ゆふぎり)立ちて鴨(かも)が音(ね)の寒き夕(ゆふへ)し汝(な)をば偲(しの)はむ

3571
己妻(おのづま)を人の里に置きおほほしく見つつそ来(き)ぬるこの道の間(あひだ)

 

要旨 >>>

〈3569〉防人として出立した夜明けの門出の時に、私の手から離れることを惜しんで泣いたわが妻よ。

〈3570〉水辺に生える葦の葉群れに夕霧が立ち込め、鴨の鳴く声が寒々と聞こえてくる夕暮れ時には、なおいっそうおまえを偲ぶことだろう。

〈3571〉自分の妻なのに、自分のいない里に残したまま、気も晴れず、何度も何度も振り返りながらこの道中をやって来た。

 

鑑賞 >>>

 巻第14の「東歌」の終わり近くに防人歌5首が載っており、ここの歌はそのうちの3首です。3569の「朝明」は、夜明け方。「金門出」は、門出。「児ら」は、女性を親しんで呼ぶ語。「はも」は、強い詠嘆。3570は、筑紫へと出航する難波の地での心情を想像して作った歌、またはそのような設定で創作された歌とされます。「葦」は、難波の風物でした。「夕し」の「し」は、強意の助詞。3571の「人の里」は、自分のいない里。「おほほし」は、心が晴れない。他人ばかりの村に置いてきた妻の心変わりを不安に思っている歌のようです。窪田空穂は、「技巧はしっかりしていて、防人としては知性的な、やや身分ある者の歌と取れる」と言っています。