大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

人言は夏野の草の繁くとも・・・巻第10-1983

訓読 >>>

人言(ひとごと)は夏野(なつの)の草の繁(しげ)くとも妹(いも)と我(あ)れとし携(たづさ)はり寝ば

 

要旨 >>>

人の噂が夏の野草が茂るようにうるさくても、あなたと私が手をとりあって寝てしまえば・・・。

 

鑑賞 >>>

 「草に寄せる」男の歌。「人言」は他人の噂。その噂のうるささを、手がつけられないほど茂り放題となる夏草に喩えています。「我れとし」の「し」は強意。「携はり寝ば」は、共に寝たならばで、下に嬉しかろうの意が省かれています。集団的生活のなかで、個人的行動が難しかった嘆きの歌ですが、作家の田辺聖子は次のように評しています。「直截的な表現で、それをどこかぶきっちょに、ぶこつに言っている。ぶっきらぼうな歌といってもいい。洗練された都会人ならもっとうまい言い回しをしたろうが、ぶったぎるような言い方に真実が感じられる」。さて、女はどのような返答をしたのでしょうか。