大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

さ夜中と夜は更けぬらし・・・巻第9-1701~1703

訓読 >>>

1701
さ夜中と夜(よ)は更けぬらし雁(かり)が音(ね)の聞こゆる空に月渡る見ゆ

1702
妹(いも)があたり繁(しげ)き雁(かり)が音(ね)夕霧(ゆふぎり)に来(き)鳴きて過ぎぬすべなきまでに

1703
雲隠(くもがく)り雁(かり)鳴く時は秋山の黄葉(もみち)片待つ時は過ぐれど

 

要旨 >>>

〈1701〉夜は更けて真夜中に入っているようだ。雁が鳴きながら渡っていく夜空を月も渡っていくのが見える。

〈1702〉妻の家のあたりで騒がしい雁の声が聞こえていたが、夕霧の中を鳴きながら来て通り過ぎていった。ああ、どうしようもなく切ないことだ。

〈1703〉雲に見え隠れし雁が鳴く時になると、秋山のもみじがひたすら待ち遠しい。雁の季節が過ぎていくのは残念だけれど。

 

鑑賞 >>>

 『柿本人麻呂歌集』から、弓削皇子に献上した歌。1701の「さ夜中」の「さ」は接頭語。斎藤茂吉はこの歌について、「ありのままに淡々と言い放っているのだが、決してただの淡々ではない。本当の日本語で日本的表現だということもできるほどの、流暢にしてなお弾力を失わない声調」と評しています。1702の「すべなきまでに」は、どうしようもないほどに私を悲しませて。1703の「片待つ」は、ひたすら待つ。結句の「時は過ぐれど」を「時は過ぎねど」と訓んで「その季節は来ないけれども」と解するものもあります。