訓読 >>>
711
鴨鳥(かもとり)の遊ぶこの池に木(こ)の葉落ちて浮きたる心(こころ) 我(あ)が思はなくに
712
味酒(うまさけ)を三輪(みわ)の祝(はふり)が斎(いは)ふ杉(すぎ)手触れし罪か君に逢ひかたき
713
垣穂(かきほ)なす人言(ひとごと)聞きて我(わ)が背子(せこ)が心たゆたひ逢はぬこのころ
要旨 >>>
〈711〉鴨が遊ぶこの池に木の葉が落ちて浮かぶような、そんな浮わついた心で私はあなたを思っているのではありません。
〈712〉三輪の神官があがめる杉、その神木に手を触れた祟りなのでしょうか、なかなかあの方に逢えないのは。
〈713〉垣根のように二人の仲を隔てる噂のせいで、あなたの心がためらっているのか、このごろ逢ってくださらない。
鑑賞 >>>
丹波大女娘子(たにはのおほめをとめ:伝未詳)の歌。711の上3句は「浮きたる」を導く序詞。712の「味酒を」の「味酒」は「みわ」とも読み、同音で「三輪」にかかる枕詞。「祝」は、神職の階級の称で、神主に次ぐ位。「杉」は、わが国固有の樹木であり、良質の木材として利用されてきたと共に、樹齢の長い巨木には神が宿るとして崇められてきました。713の「垣穂なす」の「なす」は、のように。「人言」は、人の噂。「たゆたひ」は、ためらって、躊躇して。