大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

鴨鳥の遊ぶこの池に・・・巻第4-711~713

訓読 >>>

711
鴨鳥(かもとり)の遊ぶこの池に木(こ)の葉落ちて浮きたる心(こころ) 我(あ)が思はなくに

712
味酒(うまさけ)を三輪(みわ)の祝(はふり)が斎(いは)ふ杉(すぎ)手触れし罪か君に逢ひかたき

713
垣穂(かきほ)なす人言(ひとごと)聞きて我(わ)が背子(せこ)が心たゆたひ逢はぬこのころ

 

要旨 >>>

〈711〉鴨が遊ぶこの池に木の葉が落ちて浮かぶような、そんな浮わついた心で私はあなたを思っているのではありません。

〈712〉三輪の神官があがめる杉、その神木に手を触れた祟りなのでしょうか、なかなかあの方に逢えないのは。

〈713〉垣根のように二人の仲を隔てる噂のせいで、あなたの心がためらっているのか、このごろ逢ってくださらない。

 

鑑賞 >>>

 丹波大女娘子(たにはのおほめをとめ:伝未詳)の歌。711の上3句は「浮きたる」を導く序詞。712の「味酒を」の「味酒」は「みわ」とも読み、同音で「三輪」にかかる枕詞。「祝」は、神職の階級の称で、神主に次ぐ位。「杉」は、わが国固有の樹木であり、良質の木材として利用されてきたと共に、樹齢の長い巨木には神が宿るとして崇められてきました。713の「垣穂なす」の「なす」は、のように。「人言」は、人の噂。「たゆたひ」は、ためらって、躊躇して。

 

 

三輪山神婚説話

 「三輪山神婚説話」は、古く『古事記』に見えます。夜な夜な、絶世の美女イクタマヨリ姫のもとに男が通い、ついに姫が身ごもってしまいます。ところが姫は、男がどこの誰であるとも明かしません。姫の両親は怪しみ、男の素性を探ろうとして、男が訪ねてきたときに、麻糸を通した針を男の着物の裾に刺させます。翌朝、糸をたどっていくと、それは三輪の神社まで続いており、男の正体が大物主大神(おおものぬしのおおかみ)であり、お腹の子は神の子だと知ったのです。