訓読 >>>
春霞(はるかすみ)井(ゐ)の上ゆ直(ただ)に道はあれど君に逢はむとた廻(もとほ)り来(く)も
要旨 >>>
水汲み場から家にまっすぐ道は通じていますが、あなたにお逢いしたいと思って回り道をしてやって来ました。
鑑賞 >>>
「古歌集に出づ」とある歌。「春霞」は、懸かっているの意で「井(ゐ)」にかかる枕詞。「井」は、泉や流水から水を汲みとるところ。「井の上ゆ」の「ゆ」は、~から、~を通って。「た廻り」の「た」は接頭語、「廻り」は、回り道をして、迂回して。窪田空穂は、「上代は飲用水を汲むのは娘の役と定まっていたので、この作者もそれをしているのである。歌は、水を汲んで家へ帰る途中の心で、井から家へまっすぐに道は続いているのであるが、その娘は同じ部落の中に言い交わしている男があるので、ひょっと顔が見られようかと頼んで、わざと男の家のあるほうの道へと、まわり道をして行くというのである。外出の自由でなかった若い女としてはきわめて自然な、可憐な心である」と解説しています。
『万葉集』以前の歌集
■『古歌集』または『古集』
これら2つが同一のものか別のものかは定かではありませんが、『万葉集』巻第2・7・9・10・11の資料とされています。
■『柿本人麻呂歌集』
人麻呂が2巻に編集したものとみられていますが、それらの中には明らかな別人の作や伝承歌もあり、すべてが人麻呂の作というわけではありません。『万葉集』巻第2・3・7・9~14の資料とされています。
■『類聚歌林(るいじゅうかりん)』
山上憶良が編集した全7巻と想定される歌集で、何らかの基準による分類がなされ、『日本書紀』『風土記』その他の文献を使って作歌事情などを考証しています。『万葉集』巻第1・2・9の資料となっています。
■『笠金村歌集』
おおむね金村自身の歌とみられる歌集で、『万葉集』巻第2・3・6・9の資料となっています。
■『高橋虫麻呂歌集』
おおむね虫麻呂の歌とみられる歌集で、『万葉集』巻第3・8・9の資料となっています。
■『田辺福麻呂歌集』
おおむね福麻呂自身の歌とみられる歌集で、『万葉集』巻第6・9の資料となっています。
なお、これらの歌集はいずれも散逸しており、現在の私たちが見ることはできません。