訓読 >>>
山の辺(へ)にい行く猟夫(さつを)は多かれど山にも野にもさを鹿(しか)鳴くも
要旨 >>>
山の辺に行く猟師は多くて恐ろしいものだが、それでも妻恋しさに、牡鹿があんなに鳴いている。
鑑賞 >>>
「鹿鳴を詠む」歌。「い行く」の「い」は接頭語。「猟夫」は猟師、狩人。この歌は、斉藤茂吉によれば、「西洋的にいうと、恋の盲目とでもいうところであろうか。そのあわれが声調のうえに出ている点がよく、第三句で、『多かれど』と感慨をこめている。結句の、『鳴くも』の如きは万葉に甚だ多い例だが、古今集以後、この『も』を段々嫌って少なくなったが、こう簡潔につめていうから、感傷の厭味に陥らぬともいうことが出来る」