大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

吾妹子に猪名野は見せつ・・・巻第3-279~281

訓読 >>>

279
吾妹子(わぎもこ)に猪名野(ゐなの)は見せつ名次山(なすきやま)角(つの)の松原いつか示さむ

280
いざ子ども大和へ早く白菅(しらすげ)の真野(まの)の榛原(はりはら)手折(たを)りて行かむ

281
白菅(しらすげ)の真野(まの)の榛原(はりはら)往(ゆ)くさ来(く)さ君こそ見らめ真野の榛原

 

要旨 >>>

〈279〉いとしい妻よ、お前に猪名野は見せた。今度は名次山と角の松原を、早く見せてやりたいものだ。

〈280〉さあみんな、大和へ早く帰ろう。白菅の茂る真野の榛(はん)の木の林で小枝を手折って行こう。

〈281〉白菅の生い茂る真野の榛原を、あなたは往き来にいつもご覧になっているのでしょう。私は初めてです、この美しい真野の榛原は。

 

鑑賞 >>>

 高市黒人夫妻が従者と共に真野へ遊覧に行った時に詠まれたもので、279は黒人が妻に与えた歌、280は従者たちに呼びかけた歌、281は黒人の妻が答えた歌です。279の「猪名野」は、現在の兵庫県伊丹市から尼崎市あたりの猪名川流域の平野で、伊丹空港がある辺り。「名次山」は、西宮市名次町の丘陵。「角の松原」は、西宮市松原町の海岸。280の「子ども」は、若い人々や目下の者に親しんで呼びかけた語。「白菅の」は「真野」の枕詞で、「真野」は、神戸市長田区真野町の辺り。「榛原」は、ハンノキの生えている原。ハンノキはカバノキ科の落葉高木。遊覧を十分に楽しんで後、主人である黒人が帰りを促すために詠んだ歌のようです。281の「白菅の」は枕詞。黒人が「早く帰ろう」と促すのに対し、もっと遊覧を続けたいとの気持ちを込めていると見えます。

 

万葉集』の代表的歌人

第1期(~壬申の乱
磐姫皇后/雄略天皇舒明天皇/有馬皇子/中大兄皇子天智天皇)/大海人皇子天武天皇)/藤原鎌足/鏡王女/額田王

第2期(白鳳時代
持統天皇柿本人麻呂/長意吉麻呂/高市黒人志貴皇子弓削皇子/大伯皇女/大津皇子/穂積皇子/但馬皇女石川郎女

第3期(奈良時代初期)
大伴旅人大伴坂上郎女山上憶良山部赤人/笠金村/高橋虫麻呂

第4期(奈良時代中期)
大伴家持/大伴池主/田辺福麻呂/笠郎女/紀郎女/狭野芽娘子/中臣宅守湯原王