訓読 >>>
3421
伊香保嶺(いかほね)に雷(かみ)な鳴りそね我(わ)が上(へ)には故(ゆゑ)はなけども子らによりてぞ
3422
伊香保風(いかほかぜ)吹く日吹かぬ日ありと言へど我(あ)が恋のみし時なかりけり
3423
上(かみ)つ毛野(けの)伊香保の嶺(ね)ろに降ろ雪(よき)の行き過ぎかてぬ妹(いも)が家のあたり
要旨 >>>
〈3421〉伊香保の嶺に雷が鳴らないでくれ。私には差し支えないが、あの子のために。
〈3422〉伊香保の風は吹く日も吹かぬ日もあるというが、私の恋心はやむときがない。
〈3423〉伊香保のあの嶺に降る雪ではないが、とても行き過ぎ難い、あの子の家のあたりは。
鑑賞 >>>
上野(かみつけの)の国の歌。3421の「伊香保嶺」は、群馬県の榛名山。「な鳴りそね」の「な~そね」は禁止の願望。「故はなけども」は、支障はないが。群馬県の山間部は雷の名所として知られており、国文学者の折口信夫は、「雷鳴を遠ざける呪文の様に用ゐられたものだらう」という解釈をしています。3422の「時なかりけり」は、絶え間がない。3423の上3句は「行き」を導く序詞。「降ろ雪」の「ふろ」「よき」は東語。同じく上州名物の空っ風と雪がこの2首で歌われています。