巻第11
訓読 >>> 2353長谷(はつせ)の五百槻(ゆつき)が下(もと)に吾(わ)が隠せる妻 茜(あかね)さし照れる月夜(つくよ)に人見てむかも 2354ますらをの思ひ乱れて隠せるその妻(つま) 天地(あめつち)に通り照るともあらはれめやも [一云 ますらをの…
訓読 >>> 2351新室(にひむろ)の壁草(かべくさ)刈りにいましたまはね 草のごと寄り合ふ娘子(をとめ)は君がまにまに 2352新室(にひむろ)を踏み鎮(しづ)む子し手玉(ただま)鳴らすも 玉の如(ごと)照りたる君を内へと白(まを)せ 要旨 >>> …
訓読 >>> 2513鳴る神の少し響(とよ)みてさし曇り雨も降らぬか君を留(とど)めむ 2514鳴る神の少し響(とよ)みて降らずとも我(わ)は留(とど)まらむ妹(いも)し留(とど)めば 要旨 >>> 〈2513〉少しでいいから雷が鳴り、空がかき曇って雨でも…
訓読 >>> 彼方(をちかた)の埴生(はにふ)の小屋(をや)に小雨降り床(とこ)さへ濡(ぬ)れぬ身に添へ我妹(わぎも) 要旨 >>> 人里離れたこの粗末な埴生の家に、小雨が降り床まで濡れてしまった。妻よ私に寄り添ってくれ。 鑑賞 >>> 「彼方」…
訓読 >>> 韓衣(からころも)君にうち着せ見まく欲(ほ)り恋ひぞ暮らしし雨の降る日を 要旨 >>> 韓衣をあの人に着せてみて、その姿を見たいと、恋い焦がれつつ過ごしました。雨の降るこの日を。 鑑賞 >>> 妻が、自身で縫った韓衣を夫に着せてあげ…
訓読 >>> 朝影(あさかげ)に我が身はなりぬ韓衣(からころも)裾(すそ)のあはずて久しくなれば 要旨 >>> 朝影のように私はやせ細ってしまった。なかなか裾の合わない韓衣のように、あなたに逢わない日々が続いているので。 鑑賞 >>> 恋やつれを…
訓読 >>> かにかくに物は思はじ飛騨人(ひだひと)の打つ墨縄(すみなは)のただ一道(ひとみち)に 要旨 >>> あれこれと物思いはするまい。飛騨人の打つ墨縄がまっすぐに伸びているように、ただ一筋にあなたを思っています。 鑑賞 >>> 「かにかく…
訓読 >>> 夕占(ゆふけ)にも占(うら)にも告(の)れる今夜(こよひ)だに来まさぬ君をいつとか待たむ 要旨 >>> 夕占いにも他の占いにも、いらっしゃるとお告げがあった今夜、こんな今夜さえおいでにならないあなたを、いったいいつと思ってお待ちす…
訓読 >>> はねかづら今する妹(いも)がうら若み笑(ゑ)みみ怒(いか)りみ付けし紐(ひも)解く 要旨 >>> はねかづらを新しく着けた娘は、初々しく、はにかんだりじれたりしながら、身につけた紐を解いていくよ。 鑑賞 >>> 新婚初夜の儀式のはね…
訓読 >>> かくばかり恋ひつつあらずは朝に日(け)に妹(いも)が踏むらむ地にあらましを 要旨 >>> これほどに恋し続けるくらいなら、朝も昼も、あの娘が踏んでいる土になったほうがましだよ。 鑑賞 >>> 恋わずらいに苦しむ男の歌です。どうにもこ…
訓読>>> 2695我妹子(わぎもこ)に逢ふよしをなみ駿河(するが)なる富士の高嶺(たかね)の燃えつつかあらむ 2697妹(いも)が名も我(わ)が名も立たば惜(を)しみこそ富士の高嶺(たかね)の燃えつつわたれ 要旨 >>> 〈2695〉いとしいあの子に逢う…
訓読 >>> 日並(ひなら)べば人知りぬべし今日(けふ)の日は千年(ちとせ)のごともありこせぬかも 要旨 >>> こうして逢う日が度重なれば人目についてしまうでしょう。だから、今日一日が千年のように長くあってほしい。 鑑賞 >>> たびたび逢うわ…
訓読 >>> 梓弓(あづさゆみ)引きみ緩(ゆる)へみ来(こ)ずは来ず来ば来そをなぞ来ずは来ばそを 要旨 >>> 梓弓を引いたり緩めたりするようにやたら気をもませて。来ないなら来ない、来るなら来るとはっきりしてちょうだい。それを何ですか、来るだの…
訓読 >>> 窓越しに月おし照りてあしひきの嵐(あらし)吹く夜(よ)は君をしぞ思ふ 要旨 >>> 窓越しに月の光が明るく差し込んできて、山から嵐が吹きすさぶ夜は、あの方のことを思いつめています。 鑑賞 >>> 斎藤茂吉は、この歌の「窓越しに月おし…