大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

巻第4

湯原王と娘子の歌(3)・・・巻第4-636~637

訓読 >>> 636わが衣(ころも)形見に奉(まつ)る敷栲(しきたへ)の枕を離(さ)けず巻きてさ寝ませ 637わが背子(せこ)が形見の衣(ころも)妻問(つまどひ)にわが身は離(さ)けじ言(こと)問はずとも 要旨 >>> 〈636〉私をしのぶための衣を差し…

湯原王と娘子の歌(2)・・・巻第4-634~635

訓読 >>> 634家にして見れど飽かぬを草枕(くさまくら)旅にも妻(つま)とあるが羨(とも)しさ 635草枕(くさまくら)旅には妻(つま)は率(ゐ)たれども匣(くしげ)の内の珠(たま)をこそ思へ 要旨 >>> 〈634〉私の家でお逢いするときは、いつも…

湯原王と娘子の歌(1)・・・巻第4-631~633

訓読 >>> 631表辺(うはへ)なきものかも人は然(しか)ばかり遠き家路(いへぢ)を還(かへ)す思へば 632目には見て手には取らえぬ月の内(うち)の楓(かつら)のごとき妹(いも)をいかにせむ 633ここだくも思ひけめかも敷栲(しきたへ)の枕(まくら…

須磨の海女の塩焼き衣の・・・巻第4-630

訓読 >>> 須磨(すま)の海女(あま)の塩焼き衣(きぬ)の藤衣(ふぢごろも)間遠(まどほ)にしあればいまだ着なれず 要旨 >>> 須磨の海女が塩を焼くとき着る藤の衣(ころも)は、ごわごわした目の粗い着物なので、たまにしかまとう機会がなく、いま…

神樹にも手は触るといふを・・・巻第4-517

訓読 >>> 神樹(かむき)にも手は触(ふ)るといふをうつたへに人妻といへば触れぬものかも 要旨 >>> 触れたら罰が当たるという御神木にも手を触れる人があるというのに、人妻だからと言うだけで、決して触れられないものだろうか。 鑑賞 >>> 大伴…

君がため醸みし待酒・・・巻第4-555

訓読 >>> 君がため醸(か)みし待酒(まちざけ)安(やす)の野にひとりや飲まむ友なしにして 要旨 >>> あなたと飲み交わそうと醸造しておいた酒も、安の野で一人寂しく飲むことになるのか。友がいなくなってしまうので。 鑑賞 >>> 大宰帥の大伴旅…

大伴坂上郎女が藤原麻呂に答えた歌・・・巻第4-525~528

訓読 >>> 525佐保川(さほがは)の小石踏み渡りぬばたまの黒馬(くろま)の来る夜は年にもあらぬか 526千鳥鳴く佐保の川瀬のさざれ波やむ時もなし我(あ)が恋ふらくは 527来(こ)むと言ふも来(こ)ぬ時あるを来(こ)じと言ふを来(こ)むとは待たじ来…

藤原麻呂が大伴坂上郎女に贈った歌・・・巻第4-522~524

訓読 >>> 522娘子(をとめ)らが玉櫛笥(たまくしげ)なる玉櫛(たまくし)の神(かむ)さびけむも妹(いも)に逢はずあれば 523よく渡る人は年にもありといふをいつの間にぞも我(わ)が恋ひにける 524蒸衾(むしぶすま)柔(なごや)が下に臥(ふ)せれ…

生きてあらば見まくも知らず・・・巻第4-581~584

訓読 >>> 581生きてあらば見まくも知らず何(なに)しかも死なむよ妹(いも)と夢に見えつる 582ますらをもかく恋ひけるをたわやめの恋ふる心にたぐひあらめやも 583月草(つきくさ)のうつろひやすく思へかも我(あ)が思ふ人の言(こと)も告げ来(こ)…

難波の天皇の妹君の歌・・・巻第4-484

訓読 >>> 一日(ひとひ)こそ人も待ちよき長き日(け)をかくのみ待たばありかつましじ 要旨 >>> 一日ぐらいなら待たされてもよろしいけれど、こんなに幾日も長く待たされたのでは、とても生きてはいられない気持ちです。 鑑賞 >>> 巻第4の巻頭歌。…

大船を漕ぎの進みに岩に触れ・・・巻第4-557~558

訓読 >>> 557大船(おほふね)を漕ぎの進みに岩に触(ふ)れ覆(かへ)らば覆れ妹(いも)によりては 558ちはやぶる神の社(やしろ)に我(わ)が懸(か)けし幣(ぬさ)は賜(たば)らむ妹(いも)に逢はなくに 要旨 >>> 〈557〉大船を勢いのまま漕ぎ…

月待ちて行ませ我が背子・・・巻第4-709

訓読 >>> 夕闇(ゆふやみ)は道たづたづし月待ちて行(い)ませ我(わ)が背子(せこ)その間(ま)にも見む 要旨 >>> 夕闇は道がおぼつかないでしょう。月の出を待ってからお行きなさい。お帰りになるその間、月の光で後ろ姿を見送りましょう。 鑑賞 …

夢の逢ひは苦しかりけり・・・巻第4-741

訓読 >>> 夢(いめ)の逢ひは苦しかりけりおどろきて掻(か)き探(さぐ)れども手にも触れねば 要旨 >>> 夢の中で逢うのは苦しいものです。あなたに逢えたと思って目を覚まして手探りしても、何にも触れることができないので。 鑑賞 >>> 大伴家持…

宴席の歌(4)・・・巻第4-629

訓読 >>> 何(なに)すとか使(つか)ひの来(き)つる君をこそかにもかくにも待ちかてにすれ 要旨 >>> どうして使いなどが来たのか。あなたのほうこそ、とにもかくにも待ちかねていたのに。 鑑賞 >>> 大伴四綱(おおとものよつな)の宴席の歌。四…

沖辺行き辺を行き今や妹がため・・・巻第4-625

訓読 >>> 沖辺(おきへ)行き辺(へ)を行き今や妹(いも)がため我(わ)が漁(すなど)れる藻臥束鮒(もふしつかぶな) 要旨 >>> 沖に行ったり、岸辺に戻ったりして、今ようやくあなたのために捕まえた、藻の中の小さな鮒です。 鑑賞 >>> 題詞に…

臣の女の櫛笥に乗れる鏡なす・・・巻第4-509~510

訓読 >>> 509臣(おみ)の女(め)の 櫛笥(くしげ)に乗れる 鏡(かがみ)なす 御津(みつ)の浜辺(はまべ)に さ丹(に)つらふ 紐(ひも)解き放(さ)けず 我妹子(わぎもこ)に 恋ひつつ居(を)れば 明(あ)け暮(ぐ)れの 朝霧(あさぎり)隠(…

草嬢の歌・・・巻第4-512

訓読 >>> 秋の田の穂田(ほだ)の刈りばかか寄りあはばそこもか人の我(わ)を言(こと)成(な)さむ 要旨 >>> 秋の田で穂を刈る分担の場で、お互いに近寄っていったら、それだけで他の人は私たちのことを噂するでしょうか。 鑑賞 >>> 作者の「草…

我が屋戸の夕影草の白露の・・・巻第4-593~595

訓読 >>> 593君に恋ひ甚(いた)も術(すべ)なみ奈良山(ならやま)の小松が下に立ち嘆くかも 594我が屋戸(やど)の夕影草(ゆふかげくさ)の白露の消(け)ぬがにもとな思ほゆるかも 595我が命の全(また)けむ限り忘れめやいや日に異(け)には思ひ増…

うちひさす宮に行く子をま悲しみ・・・巻第4-532~533

訓読 >>> 532うちひさす宮に行く子をま悲(かな)しみ留(と)むれば苦し遣(や)ればすべなし 533難波潟(なにはがた)潮干(しほひ)のなごり飽(あ)くまでに人の見る子を我(わ)れし羨(とも)しも 要旨 >>> 〈532〉宮中に仕えるために上京する少…

額田王と鏡王女の歌・・・巻第4-488~489

訓読 >>> 488君待つと我(あ)が恋ひをればわが屋戸(やど)のすだれ動かし秋の風吹く489風をだに恋ふるは羨(とも)し風をだに来(こ)むとし待たば何か嘆かむ 要旨 >>> 〈488〉あの方がいらっしゃるのを待って恋い慕っていると、私の家の戸口のすだ…

あしひきの山橘の色に出でよ・・・巻第4-669

訓読 >>> あしひきの山橘(やまたちばな)の色に出でよ語らひ継(つ)ぎて逢ふこともあらむ 要旨 >>> 山橘の紅い実のように、はっきりと気持ちを態度に出しなさい。そうすればやりとりを重ねていくうちに直接逢える機会もあるだろう。 鑑賞 >>> 春…

思ひ遣るすべの知らねば・・・巻第4-707~708

訓読 >>> 707思ひ遣(や)るすべの知らねば片垸(かたもひ)の底にぞ我(あ)れは恋ひ成りにける 708またも逢はむよしもあらぬか白栲(しろたへ)の我(あ)が衣手(ころもで)に斎(いは)ひ留(とど)めむ 要旨 >>> 〈707〉思いを晴らす手だてが分か…

古人の飲へしめたる吉備の酒・・・巻第4-553~554

訓読 >>> 553天雲(あまくも)のそくへの極(きは)み遠けども心し行けば恋ふるものかも 554古人(ふるひと)の飲(たま)へしめたる吉備(きび)の酒(さけ)病(や)めばすべなし貫簀(ぬきす)賜(たば)らむ 要旨 >>> 〈553〉あなたのおられる筑紫…

君が家に我が住坂の家道をも・・・巻第4-504

訓読 >>> 君が家に我(わ)が住坂(すみさか)の家道(いへぢ)をも我(わ)れは忘れじ命(いのち)死なずは 要旨 >>> あなたの家に私が住む、その言葉の響きのように、あなたと住んだ住坂の家も家路も忘れはしません。命のある限りずっと。 鑑賞 >>…

はつはつに人を相見て・・・巻第4-701~702

訓読 >>> 701はつはつに人を相(あひ)見ていかにあらむいづれの日にかまた外(よそ)に見む 702ぬばたまのその夜(よ)の月夜(つくよ)今日(けふ)までに我(あ)れは忘れず間(ま)なくし思へば 要旨 >>> 〈701〉ほんのちょっと関係を持って、いつ…

言問ふ姿面影にして・・・巻第4-602

訓読 >>> 夕されば物思(ものも)ひ益(ま)さる見し人の言問(ことと)ふ姿(すがた)面影(おもかげ)にして 要旨 >>> 夕方になると物思いがまさってきます。お逢いしたあなたが話しかけてくださった姿が面影となって現れてくるので。 鑑賞 >>> …

心には忘るる日なく思へども・・・巻第4-646~649

訓読 >>> 646ますらをの思ひわびつつ度(たび)まねく嘆く嘆きを負(お)はぬものかも647心には忘るる日なく思へども人の言(こと)こそ繁(しげ)き君にあれ648相(あひ)見ずて日(け)長くなりぬこの頃はいかに幸(さき)くやいふかし我妹(わぎも)64…

恋ひ恋ひて逢へる時だに・・・巻第4-661

訓読 >>> 恋ひ恋ひて逢へる時だに愛(うつく)しき言(こと)尽くしてよ長くと思はば 要旨 >>> 恋して恋して、やっと逢えた時くらい、ありったけの言葉を言い尽くして下さい。これからも二人の仲を長く続けようと思うなら。 鑑賞 >>> ようやく夫に…

昨夜の夜の雨に懲りにけむかも・・・巻第4-519~520

訓読 >>> 519雨障(あまつつ)み常(つね)する君はひさかたの昨夜(きぞ)の夜(よ)の雨に懲(こ)りにけむかも 520ひさかたの雨も降らぬか雨障(あまつつ)み君にたぐひてこの日暮らさむ 要旨 >>> 〈519〉雨を口実にいつも家に籠っておられるあなた…

うはへなき妹にもあるかも・・・巻第4-691~692

訓読 >>> 691ももしきの大宮人(おほみやひと)は多かれど心に乗りて思ほゆる妹(いも) 692うはへなき妹(いも)にもあるかもかくばかり人の心を尽(つく)さく思へば 要旨 >>> 〈691〉大宮に仕える女官はたくさんいるけれども、私の心に乗りかかって…