大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

作者未詳歌

東歌(20)・・・巻第14-3439

訓読 >>> 鈴が音(ね)の早馬駅家(はゆまうまや)の堤井(つつみゐ)の水を賜(たま)へな妹(いも)が直手(ただて)よ 要旨 >>> 駅鈴(えきれい)の音が聞こえる早馬のいる駅家の、湧き井戸の水を下さい、娘さん、あなたの素手で直接に。 鑑賞 >>…

ありありて後も逢はむと言のみを・・・巻第12-3113~3114

訓読 >>> 3113ありありて後(のち)も逢はむと言(こと)のみを堅(かた)く言ひつつ逢ふとはなしに 3114極(きは)まりて我(わ)れも逢はむと思へども人の言(こと)こそ繁(しげ)き君にあれ 要旨 >>> 〈3113〉ずっとこのままの気持ちでいて、後に…

うつせみの常の辞と思へども・・・巻第12-2961

訓読 >>> うつせみの常(つね)の辞(ことば)と思へども継(つ)ぎてし聞けば心(こころ)惑(まど)ひぬ 要旨 >>> 世間の通りいっぺんの言葉だとは思いますが、続けて何度も聞くと、心は乱れてしまいます。 鑑賞 >>> 女が男の求婚に答えた歌です…

東歌(19)・・・巻第14-3496~3498

訓読 >>> 3496橘(たちばな)の古婆(こば)の放髪(はなり)が思ふなむ心うつくしいで我(あ)れは行かな 3497川上(かはかみ)の根白高萱(ねじろたかがや)あやにあやにさ寝(ね)さ寝てこそ言(こと)に出(で)にしか 3498海原(うなはら)の根(ね…

東歌(18)・・・巻第14-3368~3371

訓読 >>> 3368足柄(あしがり)の土肥(とひ)の河内(かふち)に出(い)づる湯の世(よ)にもたよらに子ろが言はなくに 3369足柄(あしがり)の麻万(まま)の小菅(こすげ)の菅枕(すがまくら)あぜかまかさむ子ろせ手枕(たまくら) 3370足柄(あし…

この旅の日に妻放くべしや・・・巻第13-3346~3347

訓読 >>> 3346見欲(みほ)しきは 雲居(くもゐ)に見ゆる うるはしき 鳥羽(とば)の松原 童(わらは)ども いざわ出(い)で見む こと放(さ)けは 国に放けなむ こと放けば 家に放けなむ 天地(あめつち)の 神し恨(うら)めし 草枕 この旅の日(け)…

葦原の瑞穂の国に手向けすと・・・巻第13-3227~3229

訓読 >>> 3227葦原(あしはら)の 瑞穂(みずほ)の国に 手向(たむ)けすと 天降(あも)りましけむ 五百万(いほよろづ)千万神(ちよろづかみ)の 神代(かむよ)より 言ひ継ぎ来(きた)る 神(かむ)なびの みもろの山は 春されば 春霞(はるかすみ…

背の山に直に向へる妹の山・・・巻第7-1193

訓読 >>> 背(せ)の山に直(ただ)に向(むか)へる妹(いも)の山(やま)事(こと)許せやも打橋(うちはし)渡す 要旨 >>> 背の山に向かい立つ妹の山は、背の山の求婚を承諾したのだろうか。隔てる川に打橋が渡してある。 鑑賞 >>> 「背の山」…

鹿のために痛みを述べて作った歌・・・巻第16-3885

訓読 >>> いとこ 汝背(なせ)の君 居(を)り居(を)りて 物にい行くとは 韓国(からくに)の 虎(とら)といふ神を 生け捕りに 八(や)つ捕り持ち来(き) その皮を 畳(たたみ)に刺(さ)し 八重畳(やへたたみ) 平群(へぐり)の山に 四月(うづ…

一二の目のみにはあらず・・・巻第16-3827

訓読 >>> 一二(いちに)の目のみにはあらず五六三四(ごろくさむし)さへありけり双六(すごろく)のさえ 要旨 >>> 一二の目だけでなく、五、六に加え、三、四の目さえあるのだからな、双六のサイコロには。 鑑賞 >>> 「双六(すごろく)の賽(さ…

時守の打ち鳴す鼓数みみれば・・・巻第11-2641

訓読 >>> 時守(ときもり)の打ち鳴す鼓(つづみ)数(よ)みみれば時にはなりぬ逢はなくもあやし 要旨 >>> 時守の打ち鳴らす太鼓の音を数えてみると、もうその時刻になった。なのにあの方が逢いにやってこないのはおかしい。 鑑賞 >>> 「時守」は…

偽も似つきてぞする・・・巻第11-2572

訓読 >>> 偽(いつはり)も似つきてぞする何時(いつ)よりか見ぬ人恋ふに人の死(しに)せし 要旨 >>> 嘘をおっしゃるのもいい加減になさいまし。まだ一度もお逢いしたことなどないのに焦がれ死にするなんて。何時の世の中に、そんな人がいましたか?…

東歌(17)・・・巻第14-3572

訓読 >>> あど思(も)へか阿自久麻山(あじくまやま)の弓絃葉(ゆづるは)の含(ふふ)まる時に風吹かずかも 要旨 >>> いったい何をぐずぐずしているのか、阿自久麻山のユズリハがまだ蕾(つぼみ)の時だからといって、風が吹かないなんてことがある…

妹が袂をまかぬ夜もありき・・・巻第11-2547

訓読 >>> 斯(か)くばかり恋ひむものぞと念(おも)はねば妹(いも)が袂(たもと)をまかぬ夜(よ)もありき 要旨 >>> こんなに恋しくなるとは思わなかったから、一緒にいても、お前と寝ない夜もあった。 鑑賞 >>> 「妹が袂をまかぬ」は、妻の手…

秋の夜の月かも君は・・・巻第10-2299

訓読 >>> 秋の夜(よ)の月かも君は雲隠(くもがく)りしましく見ねばここだ恋しき 要旨 >>> あなたは秋の夜の月なのでしょうか。しばらくの間雲に隠れて見えなくなっただけで、こんなに恋しくてならないなんて。 鑑賞 >>> 「月に寄せる」歌。雲に…

東歌(16)・・・巻第14-3430

訓読 >>> 志太(しだ)の浦を朝(あさ)漕(こ)ぐ船は由(よし)なしに漕ぐらめかもよ由(よし)こさるらめ 要旨 >>> 志太の浦を朝早く漕いで行く舟は、わけもなくあんなに急いで漕いでいるのだろうか。そんな筈はない、きっとわけがあって漕いでいる…

見わたせば近き渡りをた廻り・・・巻第11-2379

訓読 >>> 見わたせば近き渡りをた廻(もとほ)り今か来(き)ますと恋ひつつぞ居(を)る 要旨 >>> 見渡すと、近い渡り場所なのに、回り道をしながらあなたがいらっしゃるのを、今か今かと待ち焦がれています。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』から「…

見れば恐し見ねば悲しも・・・巻第7-1369

訓読 >>> 天雲(あまくも)に近く光りて鳴る神の見れば恐(かしこ)し見ねば悲しも 要旨 >>> 遙か遠い天雲の近くで光って鳴る雷は、見るからに恐ろしいけれど、見なければ見ないで悲しい。 鑑賞 >>> 「天雲」は空にある雲。「鳴る神」は「雷」のこ…

鳴き立てる馬・・・巻第13-3327~3328

訓読 >>> 3327百小竹(ももしの)の 三野(みの)の王(おほきみ) 西の厩(うまや) 立てて飼(か)ふ駒(こま) 東(ひむがし)の厩(うまや) 立てて飼ふ駒 草こそば 取りて飼ふと言へ 水こそば 汲(く)みて飼ふと言へ 何しかも 葦毛(あしげ)の馬の…

旅にし居れば刈り薦の・・・巻第12-3176

訓読 >>> 草枕(くさまくら)旅にし居(を)れば刈り薦(こも)の乱れて妹(いも)に恋ひぬ日はなし 要旨 >>> 旅にあって寝床のために刈り取った薦が乱れるように、私の心は乱れて妻を恋しく思わない日はない。 鑑賞 >>> 「羈旅発思」(旅にあって…

琴取れば嘆き先立つ・・・巻第7-1129

訓読 >>> 琴(こと)取れば嘆き先立つけだしくも琴の下樋(したひ)に妻や隠(こも)れる 要旨 >>> 琴を弾こうと手にすると、先ず嘆きが先に立つ。ひょっとして亡き妻が下樋の中にこもっているのであろうか。 鑑賞 >>> 題詞に「倭琴(やまとごと)…

白玉は緒絶えしにきと・・・巻第16-3814~3815

訓読 >>> 3814白玉(しらたま)は緒絶(をだ)えしにきと聞きしゆゑにその緒(を)また貫(ぬ)き我(わ)が玉にせむ 3815白玉(しらたま)の緒絶(をだ)えはまこと然(しか)れどもその緒(を)また貫(ぬ)き人持ち去(い)にけり 要旨 >>> 〈3814…

秋田刈る仮廬を作り・・・巻第10-2174

訓読 >>> 秋田(あきた)刈る仮廬(かりほ)を作り我(わ)が居(を)れば衣手(ころもで)寒く露(つゆ)ぞ置きにける 要旨 >>> 秋の田を刈るための仮小屋を作って、私がそこにいると、着物の袖に寒く露が置いたことだ。 鑑賞 >>> 作者未詳歌。「…

白露と秋萩とには恋ひ乱れ・・・巻第10-2171~2173

訓読 >>> 2171白露(しらつゆ)と秋萩(あきはぎ)とには恋ひ乱れ別(わ)くことかたき我(あ)が心かも 2172我(わ)が宿(やど)の尾花(をばな)押しなべ置く露(つゆ)に手触れ我妹子(わぎもこ)散らまくも見む 2173白露(しらつゆ)を取らば消(け…

白栲の袖の別れを難みして・・・巻第12-3215~3216

訓読 >>> 3215白栲(しろたへ)の袖(そで)の別れを難(かた)みして荒津(あらつ)の浜に宿(やど)りするかも 3216草枕(くさまくら)旅行く君を荒津(あらつ)まで送りぞ来(き)ぬる飽(あ)き足(だ)らねこそ 要旨 >>> 〈3215〉このままあの子…

千江の浦廻の木積なす・・・巻第11-2724

訓読 >>> 秋風(あきかぜ)の千江(ちえ)の浦廻(うらみ)の木積(こつみ)なす心は寄りぬ後(のち)は知らねど 要旨 >>> 秋風が吹いて木の屑が千江の浜辺に打ち寄せられるように、私の心はあなたに寄せられました。行く末を知ることはできないけれど…

朝妻山の霞・・・巻第10-1817~1818

訓読 >>> 1817今朝(けさ)行きて明日は来(き)なむとねと云ひしかに朝妻山(あさづまやま)に霞(かすみ)たなびく 1818子等(こら)が名に懸(か)けのよろしき朝妻(あさづま)の片山(かたやま)ぎしに霞(かすみ)たなびく 要旨 >>> 〈1817〉今…

馬休め君・・・巻第7-1289

訓読 >>> 垣越(かきご)しに犬呼び越(こ)して鳥猟(とがり)する君(きみ) 青山(あおやま)の茂(しげ)き山辺(やまへ)に馬(うま)休め君 要旨 >>> 垣根の外から犬を呼び寄せて鷹狩をする若君よ、青山の葉が茂る山のほとりで馬を休めなさい、…

誰ぞ彼と問はば答へむ・・・巻第11-2545

訓読 >>> 誰(た)そ彼(かれ)と問はば答へむ術(すべ)をなみ君が使(つかひ)を帰しやりつも 要旨 >>> あの人は誰かと問われても、答えようがないので、あなたからの使いをそのまま帰してしまいました。 鑑賞 >>> 男との関係を家人に秘密にして…

仏前の唱歌・・・巻第8-1594

訓読 >>> 時雨(しぐれ)の雨(あめ)間(ま)なくな降りそ紅(くれなゐ)ににほへる山の散らまく惜(を)しも 要旨 >>> しぐれ雨よ、そんなに絶え間なく降らないでくれ。紅に色づいた山の紅葉が散ってしまうのが惜しいではないか。 鑑賞 >>> 左注…