大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

ぬばたまの夜さり来れば・・・巻第7-1101

訓読 >>> ぬばたまの夜さり来れば巻向(まきむく)の川音(かはと)高しも嵐(あらし)かも疾(と)き 要旨 >>> 暗闇の夜がやってくると、巻向川の川音が高くなった。嵐が来ているのだろうか。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』から1首。「ぬばたまの」…

大海に島もあらなくに・・・巻第7-1089

訓読 >>> 大海(おほうみ)に島もあらなくに海原(うなばら)のたゆたふ波に立てる白雲(しらくも) 要旨 >>> 大海には島一つ見えないことよ、そして漂う波の上には白雲が立っている。 鑑賞 >>> 伊勢従駕の折の、作者未詳歌。「大海に島もあらなく…

春日山おして照らせるこの月は・・・巻第7-1074

訓読 >>> 春日山(かすがやま)おして照らせるこの月は妹(いも)が庭にも清(さや)けかりけり 要旨 >>> 春日山の一面に照り渡っているこの月は、私の恋人の庭にもさやかに照っていることだよ。 鑑賞 >>> 「月を詠む歌」、作者未詳。「春日山」は…

海原の道遠みかも・・・巻第7-1075

訓読 >>> 海原(うなはら)の道(みち)遠(とほ)みかも月読(つくよみ)の明(あかり)少なき夜(よ)は更けにつつ 要旨 >>> 海原を渡ってくる道が遠いせいか、月の光が少ししか届かない。夜はもう更けてきたというのに。 鑑賞 >>> 「月を詠む歌…

朝戸出の君が足結を・・・巻第11-2357

訓読 >>> 朝戸出(あさとで)の君が足結(あゆひ)を濡らす露原(つゆはら) 早く起き出でつつ我(わ)れも裳裾(もすそ)濡らさな 要旨 >>> 朝、戸を出てお帰りになるあなたの足許を濡らす露の原。私も早起きして、あなたに連れ添って出て、裳裾を濡…

妹も我れも心は同じ・・・巻第17-3978~3980

訓読 >>> 3978妹(いも)も我(あ)れも 心は同(おや)じ 比(たぐ)へれど いやなつかしく 相(あひ)見れば 常初花(とこはつはな)に 心ぐし めぐしもなしに はしけやし 我()が奥妻(おくづま) 大君(おほきみ)の 命(みこと)恐(かしこ)み あ…

真間娘子(ままのをとめ)伝説・・・巻第9-1807~1808

訓読 >>> 1807鶏(とり)が鳴く 吾妻(あづま)の国に 古(いにしへ)に ありける事と 今までに 絶えず言ひ来る 勝鹿(かつしか)の 真間(まま)の手児名(てごな)が 麻衣(あさぎぬ)に 青衿(あをくび)着け 直(ひた)さ麻(を)を 裳(も)には織り…

持統天皇の伊勢行幸の折、都に残った柿本人麻呂が作った歌・・・巻第1-40~42

訓読 >>> 40嗚呼見(あみ)の浦に船乗りすらむをとめらが玉裳(たまも)の裾(すそ)に潮(しほ)満つらむか 41釧(くしろ)着く手節(たふし)の崎に今日(けふ)もかも大宮人(おほみやひと)の玉藻(たまも)刈るらむ 42潮騒(しほさゐ)に伊良虞(い…

吉野なる夏実の川の川淀に・・・巻第3-375

訓読 >>> 吉野なる夏実(なつみ)の川の川淀(かはよど)に鴨(かも)ぞ鳴くなる山陰(やまかげ)にして 要旨 >>> 吉野の菜摘の川の淀んだあたりで鴨の鳴く声がする。山陰のあたりで、ここから姿は見えないけれども。 鑑賞 >>> 湯原王が吉野で作っ…

梅花の歌(5)・・・巻第5-834~839

訓読 >>> 834梅の花今盛りなり百鳥(ももとり)の声の恋(こほ)しき春 来(きた)るらし 835春さらば逢はむと思(も)ひし梅の花 今日(けふ)の遊びに相(あひ)見つるかも 836梅の花 手折(たを)りかざして遊べども飽(あ)き足らぬ日は今日(けふ)…

思はぬに時雨の雨は降りたれど・・・巻第10-2227

訓読 >>> 思はぬに時雨(しぐれ)の雨は降りたれど天雲(あまぐも)はれて月夜(つくよ)清(さや)けし 要旨 >>> 思いがけず時雨が降ったけれど、いつのまにか雲がなくなって、月明かりとなったよ。 鑑賞 >>> 「月を詠む」作者未詳歌。この歌につ…

朝月の日向黄楊櫛・・・巻第11-2500

訓読 >>> 朝月(あさづき)の日向(ひむか)黄楊櫛(つげくし)古(ふ)りぬれど何しか君が見れど飽かざらむ 要旨 >>> 朝の月が日に向かうという、日向産の使い古した黄楊櫛(つげぐし)のように、私たちの仲もずいぶん古くなってしまいましたが、どう…

楽浪の比良山風の・・・巻第9-1715

訓読 >>> 楽浪(ささなみ)の比良山風(ひらやまかぜ)の海吹けば釣りする海人(あま)の袖(そで)返る見ゆ 要旨 >>> 比良山から湖上に吹き下ろす風に、釣り人の着物の袖がひらひらと翻っている。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』から。題詞に「槐本…

大口の真神の原に降る雪は・・・巻第8-1636

訓読 >>> 大口(おほくち)の真神(まがみ)の原に降る雪はいたくな降りそ家もあらなくに 要旨 >>> 真神の原に降っている雪よ、そんなにひどく降らないでほしい。ここに我が家はないのだから。 鑑賞 >>> 舎人娘子(とねりのおとめ)の歌。舎人娘子…

大丈夫のさつ矢手挟み・・・巻第1-61

訓読 >>> 大丈夫(ますらを)のさつ矢(や)手挟(たばさ)み立ち向ひ射(い)る圓方(まとかた)は見るにさやけし 要旨 >>> ますらおが、矢を手挟んで立ち向かい射貫く的、その名の圓方の浜は見るからに清々しい。 鑑賞 >>> 舎人娘子(とねりのお…

山の黄葉今夜もか・・・巻第8-1587

訓読 >>> あしひきの山の黄葉(もみちば)今夜(こよひ)もか浮かび行くらむ山川(やまがは)の瀬に 要旨 >>> この山の黄葉は今夜にも散って、浮かんで流れていくことだろうか、山川の瀬に。 鑑賞 >>> 天平10年(738年)ころの冬、大伴書持が橘奈良…

かがよふ玉を取らずはやまじ・・・巻第6-950~953

訓読 >>> 950大君(おほきみ)の境(さか)ひたまふと山守(やまもり)据(す)ゑ守(も)るといふ山に入(い)らずはやまじ 951見わたせば近きものから岩隠(いはがく)りかがよふ玉を取らずはやまじ 952韓衣(からころも)着(き)奈良(なら)の里(さ…

風交り雪は降るとも・・・巻第8-1445

訓読 >>> 風(かぜ)交(まじ)り雪は降るとも実にならぬ我家(わぎへ)の梅を花に散らすな 要旨 >>> 風交りの雪が降ることもあろうが、私の家の、まだ実になっていない梅の花を散らさないでおくれ。 鑑賞 >>> 大伴坂上郎女の歌。作者の娘(坂上大…

東歌(31)・・・巻第14-3424~3425

訓読 >>> 3424下(しも)つ毛野(けの)三毳(みかも)の山のこ楢(なら)のす目(ま)ぐはし児(こ)ろは誰(た)が笥(け)か持たむ 3425下(しも)つ毛野(けの)安蘇(あそ)の川原(かはら)よ石踏まず空(そら)ゆと来(き)ぬよ汝(な)が心 告(…

み空行く月の光にただ一目・・・巻第4-710

訓読 >>> み空行く月の光にただ一目(ひとめ)相(あひ)見し人の夢(いめ)にし見ゆる 要旨 >>> 月明かりの下でたったひと目見かけただけの人、そのお方の姿が夢に出てきます。 鑑賞 >>> 作者の安都扉娘子(あとのとびらのをとめ)は伝未詳ながら…

百済野の萩の古枝に・・・巻第8-1431

訓読 >>> 百済野(くだらの)の萩(はぎ)の古枝(ふるえ)に春待つと居(を)りし鶯(うぐひす)鳴きにけむかも 要旨 >>> 百済野の萩の古枝に春の訪れを待っていたウグイスは、もう鳴き始めているだろうか。 鑑賞 >>> 山部赤人の歌。「百済野」は…

木の暗の茂き峰の上を・・・巻第20-4305

訓読 >>> 木(こ)の暗(くれ)の茂(しげ)き峰(を)の上(へ)を霍公鳥(ほととぎす)鳴きて越ゆなり今し来(く)らしも 要旨 >>> 木々のうっそうと繁る峰の上を、ホトトギスが鳴きながら越えている。今にもこちらまでやって来そうだ。 鑑賞 >>>…

【為ご参考】「東歌」について

巻第14には「東国(あづまのくに)」で詠まれた作者名不詳の歌が収められており、国名のわかる歌とわからない歌に大別し、それぞれを部立ごとに分類しています。当時の都びとが考えていた東国とは、おおよそ富士川と信濃川を結んだ以東、すなわち、遠江・駿…

梅花の歌(4)・・・巻第5-828~833

訓読 >>> 828人ごとに折りかざしつつ遊べどもいやめづらしき梅の花かも 829梅の花咲きて散りなば桜花継ぎて咲くべくなりにてあらずや 830万代(よろづよ)に年は来(き)経(ふ)とも梅の花絶ゆることなく咲き渡るべし 831春なれば宜(うべ)も咲きたる梅…

うち日さす宮道を人は・・・巻第11-2382

訓読 >>> うち日さす宮道(みやぢ)を人は満ち行けど我(あ)が思ふ君はただひとりのみ 要旨 >>> 都大路を人が溢れるほどに往来しているけれど、私が思いを寄せるお方はたったお一人っきりです。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』から「正述心緒(あり…

我れゆ後生まれむ人は・・・巻第11-2375~2376

訓読 >>> 2375我(わ)れゆ後(のち)生まれむ人は我(あ)がごとく恋する道に逢(あ)ひこすなゆめ2376ますらをの現(うつ)し心(ごころ)も我(わ)れはなし夜昼(よるひる)といはず恋ひしわたれば2377何せむに命(いのち)継ぎけむ我妹子(わぎもこ…

志賀の海女は藻刈り塩焼き・・・巻第3-278

訓読 >>> 志賀(しか)の海女(あま)は藻(め)刈り塩焼き暇(いとま)なみ櫛笥(くしげ)の小櫛(をぐし)取りも見なくに 要旨 >>> 志賀島の海女たちは、藻を刈ったり塩を焼いたりして暇がないので、櫛笥の小櫛を手に取って見ることもできずにいる。…

防人の歌(22)・・・巻第20-4370

訓読 >>> 霰(あられ)降り鹿島(かしま)の神を祈りつつ皇御軍(すめらみくさ)に我れは来(き)にしを 要旨 >>> 武神であられる鹿島の神に祈りを捧げながら、天皇の兵士として私はやってきたものを。 鑑賞 >>> 常陸国の防人の歌。「霰降り」は、…

防人の歌(21)・・・巻第20-4407

訓読 >>> ひな曇(くも)り碓氷(うすひ)の坂を越えしだに妹(いも)が恋しく忘らえぬかも 要旨 >>> 日が曇って薄日がさすという碓氷の坂、まだこの坂を越えたばかりなのに、無性に妻が恋しくて忘れられない。 鑑賞 >>> 上野国の防人の歌。「ひな…

あしひきの山道も知らず・・・巻第10-2315

訓読 >>> あしひきの山道(やまぢ)も知らず白橿(しらかし)の枝もとををに雪の降れれば 要旨 >>> どこが山道なのか分からない。白橿の枝がたわむほどに雪が降り積もったので。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』から「冬の雑歌」1首です。「あしひきの…